第9章 褒美
──
日が沈みきった頃、天主に秀吉が詰めかけた。
「信長様!椿の剣術指導に御自らのあたるというのは本当ですか!」
「無論だ」
「面白いことになりましたな」
いつの間にか秀吉が盛大に開けた襖の裏に光秀が立ってにやりと笑っている。
「面白くねぇ!…信長様、刀も握ったことがないおなごにお付き合いなさらなくていいのではないでしょうか」
「関係ない」
「ですが…!俺たちでも良かったはずです」
信長は面倒くさそうな表情をして光秀の方を見た。
光秀は何を考えているか読めない顔をしている。
「秀吉、信長様にはお考えがあるやもしれんぞ」
「…」
秀吉にとって信長は絶対だ。
部下として主人の負担を減らしたい思いと信長様のお考えは間違いなどないから任せてしまえという心の声がせめぎあっている表情をしていた。
「もしあれが使えるように成れば戦の女神として士気を高めることも可能。信長様手ずから仕込んでこそ価値は更に高まる」
そう光秀が畳み掛ける。
「信長様のお考えとあれば…」
秀吉は不満げながらも賛成し、退室した。
「…」
光秀は真実を述べるように主君を見る。
「気まぐれだ。他意はない」
「めずらしいですな」
光秀は少しだけ驚いた表情をする。
信長は文机に乗っていた書簡を光秀に渡して言った。
「あやつらは面白い。良い暇潰しになろう」
「御意」
書簡を受け取った光秀は音もなく天主を後にした。
──