第2章 chapter 2
どうしてそんな言葉を紡いだのか、今となっては自分でも分からない。
ただ、こんなにも綺麗に自分自身を描いてくれる彼がどうしようもなく気になって、どうして俺を描くのか…ただそれを聞いてみたかっただけなんだと思う。
一度発した言葉は、取り消すことなんてもちろん出来なくて。相手がどんな言葉を返してくれるのか、それを期待しながら待つことしか出来なかった。
彼の耳が真っ赤に染まるのを、じっと見つめていたら、小さな声で返事が返ってきた。
『…好き、っていうか…その、綺麗で』
「俺が…?」
『大きな瞳とか、少し厚い唇とか、肌のきめ細やかな所とか…色々』
そう矢継ぎ早に紡がれる言葉に、今度は俺が唖然としながらも、必死になって俺の魅力を語る彼が何だかおかしくて。
俺は、手にしていた絵を彼に渡しながら、彼が出てきた方角にある部屋を見た。
…美術室か。
「君、やっぱり俺のこと好きじゃん」
『え、あ…いや、あの、そうじゃなくて…えっと』
俺が屈めていた腰を上げると、彼もつられるようにして大量の画材を手に立ち上がった。
まだ、おどおどと抵抗を示す彼の肩に俺は、腕を回して名を訪ねた。
「君の名前は?」
『え、お、大野智…だけど』
「そっか、じゃあ智くんだね」
『うん、そうだね』
「智くんは、美術室で絵を描いてるの?」
俺は智くんの肩に腕を回したまま、聞いてみた。 すると、その小さな肩が少しだけ震えた気がして、何かまずい事を聞いてしまったのではないかと焦った。
「うん、描いてるよ…僕、絵画のサークルに入ってるから」
けれど、普通に受け答えしてくれた彼を見て、胸を撫で下ろしたことを強く覚えている。
「じゃあ、今度見に行こうかな…俺のコレクションとかあったりする?」
「さぁ、どうだろう…?」
「ふはっ、なんだよそれ、智くん面白いね」
「別に、面白くはないよ」
そうぶっきらぼうに応えた彼の肩を2回ほど叩いて、俺は少し距離を取った。
「それじゃあ、また春休み後に…絶対、絵を見に行くから」
俺が笑顔でそういうと、智くんもふんわりとした笑顔を浮かべてくれて。
「うん、じゃあ…待ってるね」
その言葉を聞いて、俺はその場を後にした。