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薔薇の花が咲く頃に【気象系BL】

第1章 chapter 1



帰り道、幼稚園からさほど遠くない帰路を、息子と手を繋いで歩く。

後ろから差す夕陽が、俺と息子の影をくっきりと映し出していた。

「潤、今日はカレーだって」

「ほんと!? ぼくね、おてつだいさんが作ったカレー好きなんだぁ」

家事のできない俺は、ハウスキーパーを雇っている。休みの日は息子の面倒を見てもらったり、平日は3食のご飯を作ってもらうという条件で。

今のこの世の中が、便利な世界で助かった。
男の俺じゃ上手く出来ないことも、女性の方に助けてもらえる。

潤に不味い飯を食わせることも、冷めた飯を食わせることもない。どんなに助けられていることか…。

ふと、昔の"彼"の言葉が頭を掠めていった。

『翔くんの子供はきっと、可愛いだろうね…』

俺の横でゆっくりと歩く"彼"が、ぽつりと呟いた言葉。 少し伏せられた長い睫毛と、すんっと通った高い鼻がやけに印象的で。

どんな意味が込められていたのかも、どんな思いで発した言葉なのかも、当人じゃない俺には分からないけど…。

あの時の顔が、今でも忘れられない。

こんな今の俺を見て、俺に出来た息子を見て、君はなんて言う?

『良かったね』『おめでとう』『可愛いね』

そんな暖かい言葉をかけて、笑っているような気がする。 あの夕陽みたいな、ふんわりとした空気を纏って。

『―― 翔くん』

たれ目な瞳を、更に垂れさせて。
俺に微笑みかけているはずだ。

「ね、ぱぁぱ」

そんな思い出に、想いを馳せていた俺に、潤が現実へと引き戻してくれた。

息子といるのに、どうしてあの人の事ばかり考えてしまうんだろう。 それ程までにあの人は俺の"特別"だったんだろうか。

「どうした、潤」

そう言いつつ、息子の頭を撫でると向かい側から、聞き覚えのある声が。

『翔くん、だよね…?』

その声に反射的に顔を上げた。そして、俺の瞳に映ったのは…。

「―― っ、さ とし、くん」

あの日と、俺の記憶と。ずっと変わらないままの"彼"だった…。










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