第1章 chapter 1
『シングルファーザー』
そう言われれば、表向き聞こえはいいかもしれない。
けれど、子供の立場になって考えてみれば、苦労させる事ばかりだ。
自分の子はまだ幼い。
同年代の周りの子と比べられて、母親がいないだの、捨てられただの、そんな見てくれだけで差別的な扱いを受けるはずだ。
自分自身だって、母親ばかりの幼稚園の保護者会に出るのは、とても勇気がいる。
密かな悪意をまざまざと突き付けられるし、男というだけで白い目で見られたりもする。
それでも、息子の為にその世界で生きていかなきゃならないというのは他の男からしたら酷な話なんだろう…。
俺には妻がいた。潤の母親が。
潤がまだ夜鳴きの酷い頃、突然逃げ出した。
『もうこんなの嫌よ! 私だってまだ女なのよ!?』
そう言い捨てて、俺と潤を置いて逃げた。
その時の俺は、仕事で頭がいっぱいで。
ろくに子育ても、妻に寄り添ってやる事も出来なかった。
それが故に招いた事。
俺は、泣き止まない潤をこの腕に抱き留めて誓った。
絶対に辛い思いはさせないと。
あんな女の息子だと、愛のない家庭だと言わせないと。
そんな俺の想いを知ってか知らずか。
息子はすくすくと、のびのびと成長している。
息子も今年で5歳。
もうすぐ小学校に入学すると思うと、感慨深い。
恵まれた会社を定時で帰社し、息子を迎えに行く為に幼稚園へと向かった。
通りがかったママさん達と軽く挨拶を済まし、息子を呼ぶ。すると部屋の中から元気よく駆け出してきた息子は俺にひしとしがみつき、笑顔で迎えてくれる。
「潤、今日も良い子にしてたか?」
「うん!ぱぁぱがだいすきだから、ぱぁぱとのやくそくまもった!」
「そうか、偉いな潤は」
この笑顔で、どんな辛いことも消えていく。
この笑顔を独り占め出来て良かったとさえ思うほど。