第1章 chapter 1
『やっぱり、翔くんだ…』
俺の顔を見て、智くんと全く同じ顔をした彼が、智くんと同じように、俺の望んだ笑顔で微笑んでいる。
足をゆっくりとこちらに向けて、一歩ずつ歩いてくる。
その一歩一歩を、目で、耳で感じると俺の中に一気に様々な記憶が流れ込んできた。
『どうしてここに』とも。
『今までどこにいた』とも。
『俺の事を覚えていたんだ』とも。
そんな言葉が頭を過ぎっていくのに、声にはならずに小さな呼吸として空を切る。
逢えて嬉しいはずなのに。幾度となく望んできたはずなのに。
意図せず訪れた再会に俺は、戸惑うことしか出来なかった。 ただ智くんがこちらに来る気配を感じながら、潤の事を見ていることしか出来なかった。
「ぱぁぱ…?」
そんな俺を見て、潤が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「何でもないよ、何でもないんだ…」
俺は、潤に微笑んでみせたけどその笑顔は、きっと引き攣っていただろう。 だからこそ潤も俺の手を強く握りながら、眉を八の字に曲げていた。
必死に"彼"と目を合わさないようにしていたのに。
とうとう気配は俺と潤の頭上に現れた。
『ごめんね、やっぱり僕の事…忘れてる、よね』
「……っ、」
そう沈んだ声が聞こえて。思わず再び顔を上げてしまった。
忘れるわけがない。今だって、ついさっきだって。君の事をずっと考えていたんだ。
今だけじゃない、あの日から。君が忽然と消えたあの日から。何度も何度も何度だって…っ。
思い出して、けれどまた蓋をして。
ずっとそれの繰り返しだったんだ。
けれど、それが声にならない。言葉にならない。
「ごめん…」
『え、あ…』
俺は、潤を抱き抱えてその場を離れた。
だって君は、あの日。あの時。俺の前から消えるのと同時に、この世からも消えたんじゃなかったのか。
――死んだはずじゃ、なかったのか――。
俺の前に一度も姿を現すことなく、一生その姿を見せなくしたんじゃないか…。