第1章 chapter 1
何気ない毎日。
平和な日常。
暖かな陽射しと、吹き抜ける風。
あの日から何も変わらない。
寧ろ変わって欲しくはない。
そんな日常。
…本当は、俺の方が変わってしまったのかもしれない。
いつまでも"彼"は、あの日と変わらず。
俺に優しく暖かく微笑んでいる。
『―― 翔くん』
そんな日々が懐かしい。
ふっと瞳を細めた先に、俺の愛してやまない人が映る。
「ぱぁぱ…?」
不思議そうに俺を見つめる、初心で幼い瞳。
俺はその小さな温もりを抱き締めて、この腕の中に存在する確かな生命に微笑み返す。
「ごめんな、潤。父さん、ちょっと考え事してた」
「ぱぁぱ、カッコよかったよ!」
「えぇ…?」
「えとね、風がふああってふいて、かみのけがふぁさって!」
きらきらと瞳を輝かせて、思い出に浸っていた俺を格好良いという息子に戸惑いつつも、ふっくらとした頬に唇を寄せた。
「ぱぁぱ…?」
また不思議そうに首を傾げるから、何事もなかったように、また微笑み返して潤の持っていた紙飛行機に手を重ねた。
「父さんとヒコーキ、一緒に飛ばそうか…?」
「え、いいの!? ぱぁぱだいすき…っ!」
「父さんも、潤の事大好きだよ」
そうして俺と息子の手から飛び立った不格好な紙飛行機は、窓から入る風になびきながら、ふわふわと部屋中を漂って…。
静かな音をたてながら、冷たい地面へと墜ちた――。