第6章 chapter 6
「何を、急に…」
俺は、動揺を隠しきれず、狼狽えたまま智くんの表情を伺いみる為にも、一度拒否をするような言葉を紡いだ。
だってまさか、智くんの方から誘われるなんて思いもしなかったから。 智くんだって、俺と躰を繋げたいと思ってくれている事を、二つ返事で喜んでも良いのかと、躊躇ってしまった。
けれど、そんな俺の思いとは裏腹に、智くんは俺の事をじっと、その黒い瞳で見つめながら、甘い声で俺を誘惑し続けてきた。
「急じゃないよ…言ったじゃん、僕は翔くんが僕に会う前から、翔くんの事が好きなんだって。だから、もうずっとその気――」
「待って!その先は…お願いだから言わないで」
「翔くん…」
俺は、さっきよりも心臓が早く脈打つのを感じながら、智くんの言葉を遮った。
これ以上、智くんにリードを許していては、俺が情けない。
強引な方法だとしても、ここから先は…俺が言わなくては。
俺は、智くんの両頬を包み、不満げな唇にひとつキスを落とした。
「…んっ」
軽くキスを落として、智くんの表情を伺えば、困惑したように目をぐるぐるさせて俺を見上げてきた。
「翔、くん…?」
「智くんの気持ちは分かったよ、でもねさっきまでの言葉は、本当は俺が言いたかったんだ」
「なに、それ…」
「だって、俺…智くんの彼氏なわけだし、相手の方から言われて気付くなんて、そんな情けないことしたくなかったの」
「変なプライド…」
そう、そうなんだよ智くん。 俺は、自分で高いハードルを組み立てて躓いちゃうタチの悪いやつなの。
俺は、智くんをそっと立たせて、強く抱き締めた。 耳元に口を寄せて甘く、智くんを蕩けさせるように囁く。
「…智くん、君を抱かせて?」
俺が吐息混じりに、智くんの耳へ息を吹きかけると、智くんの小さな躰はビクンと震えた。
でも、俺の躰にしっかりと回した腕で、意志を伝えてくる。
「…うん」
俺と智くんは、美術室で最後にひとつキスを重ねたあと、智くんの家へ向かうべく大学内を出た。