第5章 chapter 5
「だったら今度は、智くんが家に来れば良いよ」
「え…?」
「せっかく再会出来たんだし…それに、潤とも会って欲しい」
俺が割と真面目なトーンで、そう言うと智くんは、綻ぶ顔を隠す為かティーカップを口元へ運んだ。
ティーカップの下で、隠しきれていない顔の綻びは、丸見えなんだけれど。それを見て見ぬ振りして、俺は智くんにもう一度尋ねた。
「どうしたい? 潤と会ってくれる…?」
俺が念を押すように問い掛けると、智くんは俺の方をちらりと見つつ、答えてくれた。
「もちろん、会いたいよ…」
「じゃあ、決まりだ…明日とかどう?」
「え、それは急だね」
「都合悪かったかな…家も近所みたいだから良いかなって」
…とは言っても、我ながら明日というのは急過ぎだった。 智くんにだって都合や予定があるだろうに。
俺は、その事を考えていなかった。 一刻も早く智くんとの距離を埋めようとして、潤に会ってもらおうとして、急ぎ過ぎてしまった。
やっぱり、智くんの都合を優先しよう。そう思って口を開いた時…。
「良いよ」
「えっ…?」
思ってもみなかった智くんの言葉に、呆気に取られるしかなかった。
智くんは俺の我儘を快く引き受けてくれたんだ…。
「本当に良いの…?」
「うん、僕の仕事はどこでも出来るから…」
「仕事…何やってるの?」
「プログラマーだよ」
「へぇ、なんか格好良いね」
「んふふ、でしょう…?」
そう言って笑いながらコーヒーを口にした。 てっきり絵の関係の仕事をしていると勝手に思っていたけれど、絵は辞めたと言っていたし、絵と関係ない仕事をしてもおかしくはないか。
パソコンと向き合っている彼を見てみたいと思ってしまった事は、今は内緒にしておこう。
明日、智くんが来てくれる…俺の家へ。 その事だけ考えていれば良い。
俺の仕事終わりに、智くんの家の前で待ち合わせする事が決まった。