第4章 chapter 4
俺が美術室へ戻ると、智くんは美術室の窓から、外に浮かぶ月を眺めていた。
またその姿が、どこか儚くて、妖艶で。 俺の心を惹き付けるように美しかった。
「智くん…?」
「あ、おかえり…」
その美しい智くんを、もう少し見ていたかったけれど、早く服を替えて貰いたかったから思い切って声をかけた。
振り向きざまに、ふにゃんと笑う智くんは、やっぱり絵を描く時とは違う顔をしている。
「こんなもので申し訳ないけど…」
「全然良いよ、ありがとう」
「こっちこそ、大切な絵を躊躇なく触ったりして、ごめんな」
「それはもう良いよ、気にしないで…?」
「うん…」
そう言いながら、智くんは自分の着ているTシャツを脱ぎ始めた。目を逸らそうか、どうするか迷っていた俺は、目のやり場に困った挙句、智くんの身体の一部分に目を奪われる事になった。
「それ、は…」
「あ、見られちゃった…ね」
下腹部、へその辺に大きく黒く広がる薔薇の花。その黒い薔薇の周りには、薔薇を取り囲むようにして、絡み付くように蔦が伸びている。
「それって…タトゥー?」
「うん…」
その凄まじさに圧倒されながら、ぽつりと呟くと、智くんも小さく頷いてくれる。
智くんの細くて華奢な躰には、余りにも似合わないその刺青…。柔らかな物腰で、暖かい彼の性格とは真逆のものを匂わせる、おどろおどろしい程の黒。
それが、智くんを…智くんの躰を縛り付けているような、そんな蔦に見えて。
思わず、それを取り除くような手つきで、智くんの躰を触ってしまった。
「んっ…しょう、くん?」
「え、あ…」
智くんの甘い声で、名前を呼ばれて我に返る。 けれど、月夜に照らし出されて怪しく耀く智くんの躰と、その薔薇に惑わされて。
――もう、止められなかった――。
「ごめん、好きなんだ…智くんが」
「え、っん…ちょ、っと、翔、っくん…っ」
俺は、一度智くんの唇にキスを落としたあと、その躰にもキスの雨を降らせていった。