第4章 chapter 4
そんなごく普通の日常を送っていたある日のこと。 この日も俺は智くんに逢いに美術室へ足を運んでいた。
「智くんの絵、結構増えたね」
「そう? 僕の家の部屋には、倍以上ある気がするけど…」
「うそ、マジで? それはそれで興味あるな…」
「じゃあ今度、家に見に来てみる?」
「え、良いの?」
「良いよ、翔くんになら」
「…そ、そっか」
そう真剣な顔をして、『俺にならいい』と答えてくれた智くんにドキリとする。
その台詞が、俺を煽っているようなものに聞こえてくるのは、仕方がないだろう。 そんな事を思ってしまった後ろめたさから、彼から目を背けると、一枚のキャンバスが目に止まった。
そのキャンバスは、俺がここに通うようになって、初めて見るものだったから…。
一部分が顔を出しているキャンバスの、全てが見たくなって手をかけると…。
「それは、ダメ…っ!」
「え、ちょ…智くん!」
俺の行動を見ていたのか、描いていたものを投げ出してこっちに来ようとするから、慌ててキャンバスから手を離した。
一方、智くんの方は絵の具やらなんやらが、服に飛び散って、凄いことになってしまっていた。
「あーあ、服汚れちゃったね…」
「うん…どうしよう」
「俺のせいだから、近くのコンビニで買ってくるよ」
「いや、良いよ…そんな事しなくて」
「駄目だよ、幸い汚れたのが上の服だけだし…Tシャツくらいなら売ってるだろうし」
「翔くん…」
「今の季節がまだ暑くて良かったよ、ちょっと待ってて」
「あ…っ」
俺は、智くんをそのままに美術室を飛び出した。 俺が余計な事をしてしまったばっかりに、智くんの服を汚してしまったんだから、これくらいするのは当然。
俺は、大学近くのコンビニで簡易的なTシャツを買って、再び美術室へ戻った。