第4章 chapter 4
「…ん、んっ、ぁ」
智くんの首筋や、鎖骨、胸にキスを降らせて。 とうとうあの薔薇の上に唇を落とした。
智くんの躰にしっかりと刻まれているそれを見ると、何故だか悲しくなって。俺は、ゆっくりと唇を離した。
唇を離して智くんを見上げると、智くんは困ったように眉を八の字に下げ、俺の髪を掻き上げるように頭を撫でた。
「智くん…?」
「翔くん、僕も…好き、だよ」
「え…」
思わぬ言葉に、目を見開いた。、智くんの瞳は月光の影になってあまり良く見えないけれど、その慈しむような声に安堵を覚えた。
俺は、智くんの顔が良く見えるように立ち上がって、智くんの首筋に手を回した。
月光に照らされた智くんは、妖艶さを纏ったまま俺を見つめている。
言うつもりのない想いが、こんな所で花開くなんて思いもしなかった。俺は、このままこの人を俺のものにして良いのだろうか。
そんな疑念を持ちながら、俺は智くんに確認する。
「智くん、良いの? 俺、男だよ…?」
「知ってるよ、僕も男だし…それに」
「それに…?」
「初めて逢った時、僕に聞いたでしょ? 俺の事好きなの?って…本当は、うんって答えたかったんだよ」
「え…?」
「だって本当に、僕…ずっとずっと前から…っんぅ!」
俺は、涙を瞳に溜めて俺を見上げて訴える智くんの言葉を遮り、その薄い唇に熱いくちづけを送った。
もうそれだけの言葉と、智くんの表情で伝わったよ。 俺だけの想いじゃなくて本当に良かった。
晴れて想いの通じ合った俺と智くんは、月光の降り注ぐ美術室で長い長いキスを交わし続けた。
「んっ、んぅ…っ、ぁ」
「智、くん…」
「…っ、ん、翔、くん…っ、」
キスの合間に互いの名を呼び合い、最後までは至れないから躰を擦り合わせる。
熱く昂ぶる熱が、お互いの躰を行き交う…それだけで満足だった。
それから数日経ったある日、智くんの周りにこんな噂が飛び交い始めた。
――『美術講師の高沢の愛人』だと――。