第4章 悪魔と、死神と、切り裂きジャック
「あれは…グレルさん…?!」
シエル達の乱入に、自分が殺ったのではないと否定の戸惑いを見せているようだがなんだか様子がおかしい。
「貴方は一体何処からその袋小路の部屋へ入られたのです?」
目の前の惨劇を見せまいとシエルの目元を覆いながらセバスチャンはグレルに詰め寄る。
グレルは遠い目をし、否定することもせず、雨に打たれながら力なくセバスチャンを見つめているが……
「くだらないお芝居はやめにしましょうよ、“グレルさん”。それらしくお上手に振る舞われていたじゃありませんか…」
“お上手に”……とセバスチャンのその一言で何かのスイッチに触れたのだろうか、グレルの口元は不気味に感極まり、その身に纏うオーラが一瞬にしてガラリと変わった。
「ンフッ♡そーーーお?そうよ…」
グレルは結んでいた髪をほどき
「アタシ、女優なの」
眼鏡を外しコームを取り出す
「それもとびきり一流よ」
とかれた髪はみるみると赤毛に変わっていく
「だけどあなただって“セバスチャン”じゃないでしょ?」
つけまつ毛をし、眼鏡をつけかえると、先程のグレルは何処かに消えてしまったかのような人物が姿を現した。
「それじゃあ改めましてセバスチャン…いえ、セバスちゃん♡バーネット邸執事グレル・サトクリフでございマス★」
「(……執事?ち、違うわ……)」
アンダーテイカーの店に来た時は人間のなりをしていた様だが、今は隠すことなく完全に人ならざるもののオーラを放出している。
「(アンダーテイカーさん?グレルさんって…まさか…)」
マリアンヌは同じ死神であるアンダーテイカーと一緒にいる時間が長かったせいか、その僅かな違和感に気付いていたのだ。
「マリアンヌは勘がいいねぇ、気づいていたのかい?そうだよ…マダム・レッドの執事君は…死神さ。それも小生とは違って、現役のね。」
「(な、何故ですか?死神はただ静かに死にゆく者の魂を狩る者ではないのですか?)」
死神といえど、神だ。人殺しをするなんて…マリアンヌは信じられなかった。
「まぁ見ていれば分かるさ〜」
アンダーテイカーは再び長屋を見るようにマリアンヌを促すと、そこから出てきたのは、一昨日見せてくれた優しい眼差しとは打って変わった冷たい瞳をしたマダム・レッドだった。