第1章 甘くて激しいバレンタイン♪
メモを見て、マリアンヌが何をするつもりなのか察しがついたのだろう。
シエルは悪い笑みを浮かべている。
「ハッ、アンダーテイカーも幸せ者だな。でもこれを全部買い揃えていたら少し遅くなるぞ。アイツが帰ってくるまでに作る時間はあるのか?」
「(……………………。)」
痛いところをつかれてしまいしょんぼりと俯いてしまった。確かに急いで買って帰っても、時間はギリギリ間に合うか微妙なところだ。
「はぁ…仕方ない。セバスチャン、マリアンヌが必要な物は全て屋敷にあるな?このまま連れて行って持たせてやれ。」
「イエス、マイロード…」
セバスチャンはマリアンヌの返事も聞かずにシエルの提案に御意と言ってしまった。
マリアンヌは慌ててセバスチャンのコートの裾を引っ張り首をブンブンと振る。
伯爵の屋敷にある高価な調理器具や材料を何の支払いも無しに貰う訳にはいかない。
だからといって、今の財布に入ってる金額で払えるはずもないのは聞かなくてもわかる。
理由はそれだけではない。
マリアンヌは常日頃アンダーテイカーからしつこい程に言いつけられている事があった。
──「小生が留守の間、伯爵と執事くんのところに1人で行ってはいけないよ〜」──
いいつけを守るのであればこのままついて行く訳にはいかない。
やはり時間に余裕がなくても自分で買い出しを済ませて戻るべきだ。
丁重に断る旨をメモに書いていたら、そのページをセバスチャンによってはがされてしまった。
──ペリッ──
「(あっ!)」
戸惑うマリアンヌにセバスチャンはニコリと笑顔を向けると耳元まで顔を近づけ、妖しくマリアンヌを説いた。
「葬儀屋さんには秘密にして差し上げますよ。」
まさに悪魔の囁きであったが、アンダーテイカーのいいつけを破る訳にはいかない。
マリアンヌはセバスチャンから距離をとって断ろうとしたが、不覚にも手を取られ、エスコートされる様に馬車に乗せられてしまった。
まずいと思ったが、もう後戻りはできそうにない。
マリアンヌはシエルの好意に甘えるしかなかった。