第12章 ヤブレ血マミレ処女航海、いざ出航
「ぶつかっちゃってごめんね!!ねぇ、2等の乗り場って何処だかわかる?」
「(あ、あの…あちらかと…)」
少し慌てた様子で2等の乗り場を指さすと、その男はマリアンヌの顔をなんの遠慮もなく覗き込んできた。
「ありがとう!!あ、あれ?ねぇ…君、俺とどっかで会った事、ない?」
「(へっ…??)」
いきなりなんて事を言うのだ。
しかし、マリアンヌはその男と目を合わせると、ゾクリと背筋が凍りつく様な感覚に襲われた。
目の前にいるのは、黒いコートを羽織ったオレンジ色の髪に、黒縁の眼鏡をかけた若い男。
なんてことない。
どこにでもいそうな軟派な男だ。
しかし、マリアンヌにはすぐに分かった。
この男が、“人間ではない”事に……
「ねぇ、本当に、ない?」
再びニコリと爽やかな笑みを見せながら顔を近づけてきた男に、マリアンヌはハッと我に返るとブンブンと顔を横に振った。
「え?ほんと?君みたいな可愛い子、一度会ったら絶対に忘れないんだけどなぁ…君は部屋どこ?…あぁ、その身なりだと1等室かな?」
「(は…はい。)」
なんと返せばいいのか分からず、マリアンヌは一度だけコクリと頷いた。
「そっか残念!俺2等なんだ。でもせっかくだから気が向いたら2等の食堂にもおいでよ!一緒に飲もう!」
「(え…えと…)」
「俺、ロナルド・ノックス!会えるの楽しみにしてるからね〜♪」
マリアンヌが返事に戸惑っていると、その男は手を振り、2等の乗り場まで走って行ってしまった。
それと同時にバスケットからビャクが飛び出すと、人混みの上を飛び上がり、少し行った所で急降下をする。
「(あ!ビャク!!)」
どうしたらいいのか分からず立ち尽くしていると、ビャクを肩に乗せたアンダーテイカーが人の流れに逆らうように走ってきた。
「(あ!アンダーテイカーさん!)」
「マリアンヌ、ごめんよ?!はぐれてしまった事に気づかなくて…」
少し慌てた様子のアンダーテイカーはマリアンヌの顔を見てホッと安堵すると、優しく抱きしめた。