第10章 その死神、激情
ーバタンッー
「………」
寝室の扉を閉めると、床にいたビャクがアンダーテイカーの肩に止まり何やらうるさく鳴いている。
しかし、アンダーテイカーはそれを無視して店の方に向かった。
ードサッー
崩れ落ちる様にイスに腰かけると、片手で顔を覆って天井を仰ぐ。
どうしてマリアンヌは自分のいいつけを破って裏切ったのだ。
そんな素振りなど昨日まで見られなかった。
マリアンヌは今まで一度も嘘をついたことが無い、それ故隠し事ができる性格でもない。
それに、それに昨日も一晩中ベッドの中で愛し合ったのだ。
何故だマリアンヌ……
マリアンヌはここを出ていくのだろうか…
自分を捨ててあの害獣の所へ行ってしまうのだろうか…
自分はまた独りぼっちになってしまうのだろうか…
あの時のように…
ヴィンセントを失った…あの時のように…
3年前、あの雨の日の馬車の中で感じた孤独感が再び甦るようにアンダーテイカーを襲った。
「マリアンヌ……どうして…」
ーコンコンッー
真っ暗な部屋でどうすることもできず、ただただ天井を仰いでいると、店の扉を誰かが叩いた。
もうとっぷりと日も暮れてあたりは真っ暗だ。
こんな時間に誰だ……
「誰だい…?」
アンダーテイカーは立ち上がり店の扉を開けると、そこにはよく行く街のパン屋の主人がたっていた。
「君は……」
「葬儀屋の旦那…今日はすまなかった!!マリアンヌちゃんは寝てるかい?」
「あぁ、いかにも…マリアンヌは今寝ているが…」
何故パン屋の主人はマリアンヌが今寝ている事を知っているのだ。
「そうか…本当にすまなかった!今店を閉めたからコレを届けにきたんだが…」
「コレは……」
差し出されたのはマリアンヌがいつも買い物の時に使っていた買い物カゴと、その中には財布が入っていた。
「…どうして君がコレを……?」
「えぇ?旦那…?何も知らないんですかい?」
「……小生は…何も知らない……」
アンダーテイカーは、何故パン屋の主人がマリアンヌの事を知っているのか、そして買い物カゴを届けに来たのかまったく分からなかった。