第10章 その死神、激情
「えと…、いやぁ、あのですね…」
マリアンヌが帰ってきてるというのに何も事情が分かってないというのはいったいどういう事なのか…
パン屋の主人にはまったく状況がつかめなかったが、分からないと言うなら説明するしかないだろうと今日の出来事を1から説明をした。
昼過ぎにマリアンヌがビャクと一緒に買い物に来たこと
疲れていたから薬酒を勧めたこと
飲み方を説明する前に一気飲みされてしまったこと
それが原因で意識を飛ばしてしまったこと
困っていた所にファントムハイヴ邸の執事セバスチャンと当主のシエルが通りかかり、屋敷で介抱してくれると言われたので頼んだこと
全ての出来事を正直に話し、再度頭を下げた。
「そう…だったの…かい…」
「本当にほんっとうにすまなかった!!これはほんのお詫びなんだが……」
呆然としているアンダーテイカーにパン屋の主人は“詫びの品”を差し出した。
「…ん?」
「これはさっき話した薬酒です。一気に飲むと大変な事になりますが、ゆっくり飲めばたはちどころに元気になりやす。少しですが持ってきました。あと、いつも買っていって下さるバケット、これは…サービスです…」
そう言って店主はアンダーテイカーが受け取った買い物カゴに、店から持ってきたバケット2本と小さな瓶に移し替えた薬酒を入れた。
「そうかい…わざわざありがとう…」
「じゃあ、これで失礼します!また今後もご贔屓に!!」
詫びの品を渡すと、店主はそそくさと帰って行った。
「……………」
自分の思ってもみなかった方向に事態が急展開する。
再びいつも自分が座ってるイスに腰かけると、アンダーテイカーは店主が作ったという薬酒を手に取った。
見るからに怪しそうな液体だ。
フタをあけて匂いをかぐと、もの凄く強いアルコール臭。こんなのを一気に飲めば酒に慣れてない人間はあっという間にひっくり返るだろう。
そして瓶の中に小指をいれると、アンダーテイカーはその怪しい薬酒を舐めてみる。
「……これは…」
どうやらアンダーテイカーもセバスチャンと同様の事に気づいたようだ。