第10章 その死神、激情
「(……あ、あぁ……)」
鋭く冷たい視線で射抜かれ、力任せに掴まれる右手首。
ギリギリと痛み、後少しでも力を入れられたらそのか細い骨は砕けてしまいそうだ。
痛みと恐怖で震えていると、2人の様子を見ていたセバスチャンが割り込んできた。
「葬儀屋さん、彼女は何も裏切ってなどおりませんよ…何故なら……」
「執事君、こんな場所でマリアンヌがこんな格好をしているんだ。それに、何故君の右手は手袋をはめていない…?悪いがそんな君の話は信用できないね。マリアンヌは連れて帰る…見送りは結構だよ。」
穏便に済ませようとパン屋での出来事を話そうとしてやったのだが、聞く耳をもたなかったアンダーテイカーにセバスチャンはヤレヤレとため息をついた。
「帰るよマリアンヌ…」
一刻も早くこの場を立ち去りたかったアンダーテイカーはマリアンヌの乱れた服を直さずそのまま横抱きに抱き上げると脱がされたコートも忘れずにひっつみ、足早に屋敷の玄関へと向かった。
セバスチャンやメイリンの声に耳を傾けることなくアンダーテイカーは屋敷を出ていくと、人気のない路地裏に入り、デスサイズをひと振りして店へと戻った。
鳩がアンダーテイカーを屋敷まで案内してくるなど、全くの予想外だったセバスチャン。
もっとマリアンヌの身体を味わいたかったのだが仕方がない。出ていったしまったアンダーテイカーを追うような事はせずに、セバスチャンは先程使っていた客室のベッドのシーツをはがすと、クルクルと丸めて新しいシーツをひき直した。
マリアンヌの愛液によって大きなシミを作ってしまったシーツを持って部屋を出ようとすると、扉の方から気怠い声で自身の名を呼ばれる。
「おいセバスチャン、いったいなんの騒ぎだったんだ…」
アンダーテイカーや、メイリンがバタバタと廊下を走る音はシエルの書斎にも聞こえていたらしい。
「申し訳ございません坊っちゃん…葬儀屋さんが急にお迎えに来られて少々面倒くさい事になっておりました。」
「なんだと…!?まさかとは思うが、粗相はしてないだろうな?」
シエルは無造作に丸められたシーツを睨みながらセバスチャンに問いかけた。