第10章 その死神、激情
「マリアンヌ…何故ここにいる?小生の言いつけを忘れたとは言わせないよ?」
「(…………)」
鋭い視線で射抜かれる様に問いかけられるが、マリアンヌだって何が起こっているのか分からないため、当然何も答えることなどできない。
ただ震えながらアンダーテイカーを見つめる事しかできなかった。
「マリアンヌは…小生を裏切ったのかい?」
「(!!?)」
違う……
絶対に違う…
自分がアンダーテイカーを裏切る理由などない。
思い切り首を振るが、でも、マリアンヌの身体は覚えていた。
意識が朦朧として記憶は混濁としていたが、マリアンヌの身体だけは覚えていたのだ。
あの燻る様な疼きが、激しい愛撫によって発散させられた事を…
そして、マリアンヌの女の部分の最奥が、絶頂を迎えた後の独特な気怠い爽快感の余韻を残していた事を…
当然マリアンヌはこの快楽はアンダーテイカーによってもたらされたものだと思っていたのだが、この様子では違うようだ。
まさかとは思うが、自分は意識を飛ばしていたとはいえ、セバスチャンをアンダーテイカーだと勘違いしていたのだろうか?
否定をしたい。
思い切り否定をしたいが、その否定を証明できるものが何もない。
何故かシエルの屋敷にいる自分、捲れ上がったスカート、ズレた下着、濡れてシミになっているシーツ、自身の中に残る気怠い爽快感。
むしろ逆だ。
アンダーテイカーを裏切ったと証明するモノしか此処にはない。
でも何故こんな事になったのだ。
マリアンヌは必死に思い出そうとするが、パン屋の主人から薬酒を貰ったあたりから記憶がない。
それを伝えようとしたが、その右手を思い切り掴まれてしまった。
「(アンダーテイカーさん…?)」
「どうしてだマリアンヌ…?!どうして小生のいいつけを破った?どうして、どうして小生を裏切った…」
アンダーテイカーの鋭い視線は怒りと悲しみが複雑に入り混じり、マリアンヌの細い手首を砕いてしまうかの如く力任せに掴んでいた。