第10章 その死神、激情
「(はーい!!今出ますだ!)」
呼び鈴を聞いたメイリンがバタバタと走りながら玄関に向かい、扉をそっと開けた。
「どちら様ですだか?…………っ!!!!」
ーガチャッー
扉を開けると、押し返されるような殺気の圧がメイリンを襲う。
ただ事ではないと瞬時に判断をすると、メイリンはレッグホルスターに忍ばせていた拳銃を手に取り、呼び鈴を鳴らした相手に素速く銃口を向けた。
ーガシッー
「…え?!!!」
しかし、その訪問者は躊躇うことなく銃口を素手で握るとグッと下に下げてしまう。
流石のメイリンも予想外の出来事に一瞬思考回路が止まってしまった。
「…銃を向けるなんて、お客に対してなんて酷いもてなしだい?メイド君…」
「そ、そ、葬儀屋さん…?ですだか…?」
よく見ると、目の前にいるのは何度か会った事のある葬儀屋アンダーテイカー。
いつもはおどけた物言いのアンダーテイカーが、今は自分の目の前で隠すことなく殺気を纏って立っている。
前髪の隙間から垣間見えた鋭い視線は、まさしく研がれた刃物そのもので、容赦なくメイリンの全身を突き刺した。
メイリンの中の第六感が警告を鳴らす程それはおびただしい殺気を放っていた。
「ああ、いかにも小生は葬儀屋だ。ところで…マリアンヌはどこだい?」
「え…マリアンヌさん、ですだか?」
「この屋敷にいるはずだ…いったいどこの部屋にいる…?」
「あ、あの…」
メイリンは先程客室でマリアンヌがセバスチャンに息を上げながら絡みついている場面を見てしまっていた。
セバスチャンに限ってマリアンヌに手を出すような事などしていないとメイリンは信じていたが、この様子のアンダーテイカーに今マリアンヌがセバスチャンと2人きりになっている事は知られない方がいいに決まっている。
「案内する気が無いなら結構。勝手に連れて帰るから構わないでくれ…」
なんとか引き止める事はできないかと考えたが、アンダーテイカーはズカズカと入り込むとメイリンを無視して屋敷に入り込んでしまった。
「あ、葬儀屋さん!こ、困ります!」
「ビャク!!マリアンヌはどこだ!?」
アンダーテイカーは飛び上がったビャクを追いかける様に屋敷の奥へと行ってしまった。