第10章 その死神、激情
ーその頃ー
アンダーテイカーは予定より少し早めに仕事が終わったため、店で待っている愛しいマリアンヌを1分でも早く抱きしめたいと、すぐに馬車を呼び乗り込んだ。
しかし……
「……ん?ビャク?どうしてこんな所にいるんだい?」
店に到着し、馬車を降りるとアンダーテイカーはすぐに“異変”に気がつく。
『クルルル…』
家の中にいる筈のビャクがこの寒空の下、店の外に置かれた墓石の上にちょこんと佇んでいたのだ。
マリアンヌがビャクを締め出したなど考えられない。
どうしたのかと店に入ろうとしたが、カギがかかっていた。
「…どういう事だ?」
よく見ると、扉に掛けられたプレートが「CLOSE」になっている。
店の中にマリアンヌはいないのだろうか。
「ビャク、どうしてお前はここにいるんだい?マリアンヌは店の中にはいないのかい?」
『クルルル…』
アンダーテイカーの問に素直に答えるビャク。
今の返事は“応”だ。
カギがかかっている上に店にはいない。
そして、ビャクが1人で自分の帰りを待っていた。
「マリアンヌの居場所が分かるかい…?」
『クルルル!!』
「そうかい…すぐに小生をマリアンヌのいる所まで案内しておくれ。」
返事をしながら羽をバタつかせると、ビャクは飛び上がりアンダーテイカーをマリアンヌのいる場所まで案内し始めた。
ビャクの案内する方向に走ってついて行くと、アンダーテイカーはある事に気付く。
「この先は…伯爵のタウンハウスじゃないか…」
言いようもない嫌な予感がアンダーテイカーの頭をよぎるが、ビャクが羽ばたいて行った先はまさしくファントムハイヴのタウンハウス。
何故マリアンヌがここに。
セバスチャンの正体は話したはずだ。なのに何故ここにいる。
シエルとの契約に縛られているため節操のない食い散らかしはしないと思っていたが、自分の考えが甘かったのだろうか…
自然と全身から殺気が湧いてくる。
屋敷の豪華な玄関まで辿り着くと、ビャクはアンダーテイカーの肩に降り立った。
そしてアンダーテイカーはその殺気を一切隠す事なく扉の呼び鈴を鳴らした。