第10章 その死神、激情
「(はぁ…あぁ……アンダーテイカーさん…)」
何度も何度も角度を変えて交わされる濃厚な口付けは2人を禁断の領域へと妖しく誘う。
「…………」
しかし、いくら薬酒に酔ったからと言って、マリアンヌがこんなにも男に積極的になるなんてと、セバスチャンは意外に感じた。
マリアンヌはどこか影があり、どこか人間らしくなく、無垢で無欲な印象が強かったから尚更だ。
はたしてアンダーテイカーとの普段の睦み合いでもこうなのだろうか…思わず邪推をしてしまう程にだった。
……これは……
だが、セバスチャンはマリアンヌとの濃厚な口付けを堪能しながらある事に気付く。
「(はぁ……はぁ……)」
「この薬酒はもしかすると……」
唇を離したセバスチャンは自身の口の中に残るマリアンヌの唾液に、微かな薬酒の香りを感じよくよく分析をしてみた。
薬酒といっても種類は様々だ。
美容
健康
滋養
強壮
精力剤
不眠症
セバスチャンはてっきり美容の類いの材料が漬けられた薬酒を飲んだのかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
主な成分は滋養強壮に用いられる物だったが、精力剤として使われる成分も僅かながら確認できた。
所詮素人が作った薬酒だ。
パン屋の主人もその成分に気付かずに漬け込んでしまったのだろう。
「そういう事でしたか…」
おそらくマリアンヌは薬酒のアルコールに酔ってしまったのと同時に、僅かに含まれていた精力成分が強く作用してしまったと思われる。
その成分は偶然にもマリアンヌの体質には強すぎたようだった。
そうなると、この状況には面白い程に合点がいく。
セバスチャンは悪魔の笑みをマリアンヌに向けるとそっとそっと呟いた。
「自分の意思とは反対に身体が疼くというのはさぞお辛いでしょう……」
「(……あぁ……あ……)」
セバスチャンは顎を軽く掴んで上を向かせると、マリアンヌは先程の濃厚な口付けて飲み込みきれなかった唾液を口の端からこぼしながら力なく頷いた。