第10章 その死神、激情
ーパシッー
「…?!」
マリアンヌはグラスを持つセバスチャンの手を思い切り振り払ってしまった。
「お水をお持ちしようとしたのですが…如何なさいましたか?」
と、セバスチャンが言っても、マリアンヌは首を振りながらアンダーテイカーの名を呼び続けている。
しかし、悪魔で執事のセバスチャンはある事が閃くと、顔を上げ、部屋をぐるりと見やりながら実にわざとらしく独り言を言いだした。
「おやおや、困りましたね…マリアンヌさんは、口移しを御所望でいらっしゃるのですか?それはそれは、仕方ないですねぇ…」
部屋には自分達以外誰もいないというのに、わざわざ自分の解釈がマリアンヌの要望であるかのように言ってみせる。
勿論、どこかから苦情が入るわけでもない。
この部屋は2人きりであるのと同時に、屋敷の玄関からは1番遠い最奥の客室なのだ。
「それでは、失礼させて頂きますよ…」
セバスチャンはグラスの水を口に含むとベッドの上に片膝をつき、マリアンヌを抱き起こしてそっと唇を近づけた。
「(……ふぅ…うぅん……んん……)」
愛しいアンダーテイカーの名を呼び続けているマリアンヌの唇に自身の唇を重ねると、セバスチャンは口の中に入れていた水を流し込んだ。
「(…んん…もっと……もっと…下さい…)」
「かしこまりました…」
自身を葬儀屋と勘違いされている事に関しては少々複雑なセバスチャンだったが、今触れた唇はとても柔らかく且つ燃えるような熱を帯びていて、何とも言えない衝動が走る。
仰せのままに再び水を口に含み唇を重ねると、マリアンヌの細い腕がセバスチャンの背後にまわり、か弱い力で抱きついてきた。
「……!?」
そして、水を飲み終えたマリアンヌは自身の舌をセバスチャンの口内に侵入させ、深い口付けを求めてきた。
「(……んん……ん……)」
最初こそ驚いたセバスチャンであったが、情熱的に絡んでくるマリアンヌの舌を拒絶する理由などない。
セバスチャンは吐息を漏らしながら必死に求めてくるマリアンヌに応えるよう、自身も舌を侵入させその欲求を満たしてやった。