第10章 その死神、激情
「さて……どうしたものでしょうか。」
再び2人きりになった客室。
セバスチャンは内側から鍵をかけると、水差しの乗った丸いトレーをベッドのサイドテーブルに置いてマリアンヌの様子を伺った。
「マリアンヌさん…?」
するとマリアンヌは、ハッ、ハッと短い呼吸で息を上げながら両手をセバスチャンの方に向けて何か訴えている。
「(……あ………ん………)」
何を言ってるか分からない上にこの状態では筆談も無理だ。
しかし、マリアンヌは何かを求めているかの様に必死に何度も口を動かしている。
「困りましたね………ん?」
だが、その口元をじっくりと見つめて唇の動きを読めば、セバスチャンはマリアンヌが何を求めているのかすぐに分かってしまった。
「(…ア、アンダーテイカーさん…こっちに…きて…)」
マリアンヌは強い薬酒に酔って意識を朦朧とさせてもなお、アンダーテイカーを求めていた。
セバスチャンは、葬儀屋アンダーテイカーがマリアンヌに執心している事には何となくだが納得していた。
しかし、この様子だとマリアンヌの方も相当アンダーテイカーの事を慕っていると思われる。
それは慕っているというよりは…むしろ依存しているかのようだ。
蕩けるような表情で何度も何度もアンダーテイカーの名を呼ぶマリアンヌ。
そんなマリアンヌにセバスチャンは近寄ると声をかけた。
「マリアンヌさん、私はセバスチャンですが…何が御所望ですか?」
顔を近づけて囁くように声をかけると、その声にマリアンヌの身体がビクンと反応をした。
「(アンダーテイカーさん…お、お水が…飲みたいです……)」
どうやらマリアンヌはセバスチャンをアンダーテイカーだと思いこんでる様だ。
「私は貴女の求めている葬儀屋さんではございませんよ?」
しかし、マリアンヌは聞く耳を持たず、首を振りながら何度もアンダーテイカーの名を呼び続けている。
流石にセバスチャンも困り果ててしまうが、マリアンヌは今水を飲みたいと言っていた。
ひとまず水差しを傾けグラスに水を注ぐが、その時だった。