第10章 その死神、激情
欲望の果てに誘い込むかのようなマリアンヌの腕にとらわれて、よからぬものが疼きだしたセバスチャン。
しかし次の瞬間、ノックもなしに扉が開く音が鳴り、それと同時に品の欠片も感じられない悲鳴のようなモノが客室内に響いた。
「ギャッ!!ギャ〜〜〜!!!セ、セ、セバスチャンさん?!」
そこにいたのは水差しを持って慌てふためくメイリンだった。
「…メイリン…水を持ってきて下さったのですね。ありがとうございます。」
するとシエルがひょっこりと顔を出し、絡み合っている2人に対してボソリと言い放った。
「おい、セバスチャン…あまりすぎた悪戯をしてくれるなよ。あのアンダーテイカーにバレて情報量を値上げにさせられたらたまったもんじゃないからな…」
「ぼ、坊っちゃん?!坊っちゃんにはまだ早いですだ!見てはイケないですだーー!!」
シエルがついてきていた事に気づいてなかったメイリンは再び取り乱し水差しの乗ったトレーをひっくり返しそうになってしまった。
「はぁ…お2人とも、何を勘違いされてるのか分かりませんが…私は酔ってしまわれたマリアンヌさんを介抱していたまでです。」
「ハッ、介抱か……」
セバスチャンは一旦マリアンヌの腕をほどくと、バランスを崩して落下しそうになった水差しをすんでのところで受け止めた。
「ええ、あくまで、介抱でございますよ。坊っちゃん。」
セバスチャンは人差し指を自身の唇に当てると、妖しく微笑みながら小首をかしげて、これはあくまで“介抱”だと主張した。
「ふん、せいぜい粗相のないようにな。」
「イエス・マイロード」
「あ、あの〜……」
「メイリン、坊っちゃんはこのあとは書斎にてお仕事をされる予定です。私は手が離せませんので…あとは頼みましたよ。」
「は、はいですだ…!!」
シエルは不機嫌そうに、メイリンは顔を真っ赤にしながらそれぞれに客室を後にすると、扉はバタンと閉まり、再びそこはシン静まり返った。