第10章 その死神、激情
「アルコールが抜けてしまえば大丈夫でしょう。なのでメイリン、私はマリアンヌさんを客室に連れて行きますので水を持ってきて下さい。」
「はいですだー!!」
メイリンは敬礼の様なポーズをとると急いで厨房に向かおうとするが、すかさずセバスチャンが忠告を入れる。
「メイリン!走らなくて結構です。歩いて持ってきて下さい。」
「は、はいですだ…!!」
ここでメイリンのドジッ子とやらがでて、水差しを落とされてはたまったものではない。
セバスチャンは静かに歩いて厨房へ向かうメイリンを確認してから客室へとマリアンヌを運んだ。
上等なキングサイズのベッドが置かれた客室に入ると、セバスチャンはそっとマリアンヌをベッドに寝かせる。
「(…………ん……んん……)」
頬は赤く染まり、呼吸も荒く心拍数も上がっている。
今のマリアンヌは紛れもなく“酔っ払っている”状態だ。
「さて、どうしたものでょうか…」
仰向けに横たわっているマリアンヌの顔を覗き込みそっと熱くなっている頬を撫でる。
そしてセバスチャンが少し考え込んでいると、ユラリと細い腕がセバスチャンの首元に弱々しく絡みついてきた。
「マリアンヌさん…?」
「(…………ん………、……)」
薄っすらと瞼を開けたマリアンヌはうつろげな視線でセバスチャンを見つめて何かを言おうと唇を動かすが、マリアンヌは喋れないのだ。
何を言いたいのか分からぬまま、その細くて白い腕はさらにセバスチャンに絡みつき、しっかりとホールドしてしまった。
中腰になったまま動けなくなってしまったセバスチャンだが、動けなくなってしまったのはマリアンヌにしがみつかれたからではなさそうだ。
頬を染めてうつろげに自身を見つめるその表情はとても扇情的で、半分開いて息を上げているその唇は瑞々しく潤っていた。
そんな今にも蕩けてしまいそうなマリアンヌの姿に、セバスチャンの男としての部分がドクンと脈打つように高鳴る。
「これはいけませんね……」
…セバスチャンの瞳が赤く光る。
そして、燕尾服を纏った従順な執事の中に潜んでいた悪魔の姿が、チラリと見え隠れしだした。