第10章 その死神、激情
「あちゃ〜〜〜!!」
店主は額に手をあててやってしまったと声を上げるが時すでに遅し。
どうやらこの薬酒はチビチビと飲むことで、緩やかに成分が身体に吸収されて、体力が回復するという仕組みになっていた様だ。
そのため、疲れた身体に一気に煽ってしまうと、強いアルコールが身体を刺激してしまい、体力回復の効果を発揮する前に酔っ払ってしまうという副作用があったのだ。
現に目の前のマリアンヌは疲労困憊の身体で、飲み慣れない強い酒を煽ったせいか、若干焦点が合わなくなってる上にフラついている。
まったくの逆効果になってしまった。
「おい!マリアンヌちゃん?大丈夫かい?!」
「(は…はい…らいりょうふれふ……)」
フラフラしながらメモに文字を書いてるため、何を書いているのか読みづらい。
マリアンヌは店主の話をちゃんと聞いていなかった為、自分に何が起こっているのか分からなかった。
自分の身体には、この薬酒は合ってなかったのだろうか…
グラグラと重たくなってくる頭でマリアンヌは一生懸命に考えた。
もしそうだとしたのなら迷惑をかける前に帰らなくてはとマリアンヌはフラつきながらも店を出ようとしたが、店を出たところで意識を半分飛ばしてしまった。
「(んー…あれ……)」
「マリアンヌちゃん!!!」
店主がマリアンヌの身体を支えて何とか立たせるが、足元がフラついてどうにもならない。
「あちゃ〜まずいことになったな…」
店主は困り果ててしまうが、偶然にも救世主が現れる。
「パン屋のご主人様、そちらのお嬢様の事で何かお困りですか?」
「え?!えぇ?!」
そこに現れたのは貴族が乗るような立派な馬車から降りてきた執事と思われる男だった。
いきなり声をかけられた店主は慌てふためくが、なんとかうわずった声で答える。
「あ…この嬢ちゃん、いつも買いに来てくれる娘なんですが、ちょっと薬酒を飲ませたら酔ってしまって…」
「それはそれは…お困りでしょう…」
執事と思われる男が馬車の方を向くと、窓から隻眼の少年が気怠そうに声をかけた。