第7章 死神との出会い
すぐにでもクビにして出ていってもらいたいと喚き散らした正妻であったが、その使用人は身体が弱く病弱だった。
金持ちの領主が、いたずらに身体の弱い使用人を妊娠させて解雇したなどと悪い噂が立てば世間体が悪くなる。
領主も正妻も、身体が弱く他に働き口のなかった使用人の出産を許してやるしかなかったが、正妻は出産と、解雇の免除をするにあたって1つ条件を突きつけた。
産まれた子が男であれば闇の人身売買へ、女であれば娼館へ売りに出すことを条件としてだしたのだ。
使用人は抵抗したが、病弱なこの身体1つでは満足に乳を飲ませてやることも叶わないだろう。
屋敷を追い出されては母子ともに待っているのは死のみだ。
子供は5歳になったら売りに出す。
悔しくもその条件をのむしかなかった。
そして産まれた子供は母親似の女の子。
ダークブロンドの髪の毛に透きとおるような白い肌、ヘーゼルの瞳、美しく育つだろうと誰もが想像できるほど綺麗な顔立ちの赤子だった。
しかし、赤子が声を出したのはこの世に産み落とされた時に上げた産声の1度きり。
その産声もか細く弱いもので、ほんの一声上げただけだった。
乳を欲しがるときも、おしめが汚れた時も、顔をしかめてバタバタと手足を動かすだけで、まったく泣き声を上げない。
使用人は医者に診せたいと何度も訴えたが、不貞の末にできた子供を医者に診せるなど、領主夫妻は許そうとしなかった。
しかし、声を出さない以外には特に大きな病気をすることなく、少女はすくすくと育っていく。
だが不運な事に、少女が3歳の誕生日を迎えた日に母親である使用人は病気により命を落とした。
約束では売りに出すのは5歳になってからだったが、当の母親は死んでしまったのだ。
正妻は、使用人の葬儀が済むと、これ幸いと少女を売りに出す準備を始めてしまった。
少女は幼いながら、自分はどこかに売り飛ばされるのだろうと心の中で思っていた。
理由はよく分からぬが、正妻からは疎ましい目で見られ、時々八つ当たりの様な暴力も受けていた。
それを知っていて何も言えない母親。
自分は望まれて産まれてきたのではない事、そして自分を守って愛してくれる存在は、この屋敷にはいないという事を既に少女は悟っていた。