第7章 死神との出会い
──3年前の冬──
アンダーテイカーは真っ暗な空から冷たい雨が降り注ぐ中、馬車に乗っていた。
「ヴィンセント……」
ボンヤリと雨の降る外を眺めながらアンダーテイカーは一筋の涙をこぼす。
長きに渡ってその人生を見守ってきたファントムハイヴ家が昨年の12月14日、何者かによって惨殺され、無残にも屋敷は燃やされてしまった。
それだけではない。
月命日の今日、墓に花を供えようと、かつての屋敷に行ったら、焼け焦げた屋敷はもとの豪華絢爛な建物に戻っており、ヴィンセントの息子、シエル・ファントムハイヴが真っ黒な害獣を従えてアンダーテイカーを迎えたのだ。
シエルがどうやって生還し、悪魔を召喚したのかは不明だ。
また契約の内容もわからない。
だが、シエルの目的が達成されればシエルの魂はこの害獣に対価として差し出さなければならないのだ。
もうファントムハイヴ家は失ったも同然だ。
大切な繋がりを一夜にして絶たれてしまった悲しみに涙が溢れ出す。
狭い馬車の中でアンダーテイカーは言いようもない孤独感に襲われた。
そんな時だった。
「………………?!」
馬の走るスピードに合わせて飛んでいく景色の中に、何かを感じたアンダーテイカーは思わず御者に止めるよう声をかけた。
「ん?どうしたんだい?」
窓をあけて通り過ぎた後ろの方を見やると、暗がりでよく分からないが、人がうつ伏せで倒れているように見える。
死体だろうか?
アンダーテイカーが馬車から降りて見に行こうとすると、御者からやめるように言われてしまう。
「お客さん!やめときな!ありゃ多分娼館の娼婦だ。」
「娼婦?」
「あぁ、隣町に粒ぞろいで有名な娼館があるんだが、亭主が無慈悲な男でね。使い物にならなくなった娼婦は人通りの少ないこの街道に捨てられちまうって噂があるんだ。前にも一度見たことがある。あの女もきっと病気か飽きられたかで捨てられたんだろう。使い古しの娼婦拾ってもイイコトないぞ。」
御者はブンブンと手を振り、“やめとけ”とアンダーテイカーを止めた。