第6章 死神とスパイス
「もう…マリアンヌにそんな事言われちゃったら何も言い返せないわ。」
少し困ったように笑うとニナはマリアンヌの頬に軽くキスをして、着物と帯が並べてあるカウンターまで案内してやった。
「(わぁ!!キレイ!!)」
綺麗に畳まれてある着物は和紙に包まれている。
その和紙を開いて中の模様を見せてやると、マリアンヌは目を見開いて驚いた。
着物は2反あり、1つはマリアンヌに、1つはシエルの婚約者のエリザベスのために取り寄せた物だった。
マリアンヌに用意されたのは薄いピンク地にグレーや黄色のラインが入り、沢山の花模様が散りばめられた物だった。
帯も黒地に金の装飾が沢山入りなんとも豪華だ。
それに生地も独特で、なんだか凹凸があるように見える。
英国では見たことのない材質にマリアンヌは首を傾げた。
「ほぉ、総絞りの振り袖なんて、また豪華な物を仕入れたね〜」
「は!?あんた、着物の知識なんてあったの?」
「まぁね、少しはね。日本の文化に興味があって住んでたこともあったからね〜」
「はん、意外だったわ。」
ニナは少し悔しそうに鼻を鳴らした。
マリアンヌはアンダーテイカーが日本に行ったことがあると聞いていたし、日本の文化に関する資料も多く本棚にあったため、着物に詳しい事にはそこまで驚かなかった。
マリアンヌに用意されたのは絞り染めという日本の伝統的な技法を使った染め物で、立体的な模様がより豪華に見える高級品だ。
よく見ると、エリザベスに用意されて物も色違いの総絞りだった。
「(ニナさん、エリザベス様とは色違いなんですね。)」
「そうなの、レディ・エリザベスには水色が似合うと思ってね!マリアンヌの模様とは少し違うけど、こっちも総絞りの振り袖よ。手紙を出したから近々お店に来てくれると思うんだけどね。」
ニナはさっそくマリアンヌを試着室に連れて行こうとその手を取るが、静かに反対側の手を取る人物が1人。
その相手にニナは思い切り鋭い眼光で睨み上げた。