第1章 甘くて激しいバレンタイン♪
ここでこんな事をしていても仕方がない。
マリアンヌはなんとかアンダーテイカーを引き止めようとキッチンから出ると、ちょうど彼も店の裏扉を開け、廊下でばったりと鉢合わせになった。
よくよく見るとアンダーテイカーは手ぶらだ。
遺体の回収をしに行ったのではなかったのであろうか?
駆け寄ると、アンダーテイカーは両腕を広げてマリアンヌを抱きしめた。
「マリアンヌ〜ただいま。愛してるよ〜。小生は寂しかったよ〜」
帰宅時のお決まりの台詞を言うと、前屈みになり深いキスをする。離れていた時間を埋めるかのように何度も舌を絡ませマリアンヌを感じると、より一層強く抱きしめる。
「あれ〜?なんだか甘い香りがするね〜、今日は何をしてたんだい?」
「(!?)」
「何か作ってたの〜?」
はっと自身の姿を確認すると、エプロンと三角巾をつけたままだった。キッチンにいた事がバレバレだ。
マリアンヌは慌ててキッチンの扉まで走っていくと、扉を背中で隠して両手をブンブンと振ってみせた。
「なになに〜!小生気になるじゃないか〜?」
なんとしてもこの場から離れてもらいたいが、アンダーテイカーはマリアンヌの制止をするりと抜けドアノブを掴むと、いともあっさりとキッチンの扉を開けてしまった。
「(あぁぁぁぁ!!)」
声にならない声を上げるとは正に今の状況にぴったしだろう。
「(はぁ……)」
ガックシと肩を落とすと、マリアンヌはサプライズを諦め、アンダーテイカーの手を取った。
──今日はバレンタインデーなので…その、アンダーテイカーさんにガトーショコラを焼いていたんです──
「!?」
いつもおどけているアンダーテイカーの顔が少し驚いたようにも見える。案外サプライズは成功しているのだろうか。
一方アンダーテイカーはマリアンヌのサプライズプレゼントに一瞬胸が踊ったが、この鼻をかすめる濃厚な甘い香りには、覚えがあった。
ふとキッチンを見ると、溶かしたチョコレートがまだボールに残っているのが目に入る。
おもむろに指を突っ込み口に入れると……
ビンゴだった。
「マリアンヌ〜?小生のいない間に伯爵と執事くんの所へ行ったね?」
黄緑色の瞳がチロリとマリアンヌを見据える。
マリアンヌの全身が凍りついたのは言うまでもなかった。