第5章 死神は御満悦
マリアンヌが店の外に出るのは実に2か月以上ぶりだった。知らず知らずの間に季節は移り変わり、頬を通り抜ける風はやや冷たさを感じた。
今までは1人で買い出しに出るとこも良くあった為、食料品や日用雑貨店の店員なんかとは顔見知りで、よくオマケをしてもらうこともあったが、今のマリアンヌはその誰とも話などしたくはなかった。
只々アンダーテイカーの手を強く握り、腕の方に顔を埋めている。
しかし間もなくいつも行っている食料品店に着いてしまう。
変な緊張でドキドキさせながら歩いていると、少し先の地面に血を引きずった様な血痕が細い路地に向かって1本の線を描いているのが見える。
あれは何だろうか。
「(アンダーテイカーさん……あれはいったい?)」
「ん?どうしたかな?野良猫が馬車にでも轢かれたかな?」
「(え?!)」
野良猫の類が馬車に轢かれることなど、あまり珍しくない。
時には暴れた馬に人が巻き込まれる事もあるくらいだ。
しかし、何故だか今のマリアンヌは目の前の血痕を無視して歩み続けることがてきなかった。
自分を呼んでいるような気がすると言えば大袈裟だが、その胸騒ぎにいてもたってもいられなくなってしまったマリアンヌはアンダーテイカーと繋いでいた手を振りほどくと、その血痕を追いかけ細い路地に向かって走り出してしまった。
「マリアンヌ?!」
その様子に驚いたアンダーテイカーも急いでマリアンヌの後を追った。
引きずるような血痕は徐々に濃くなっていく。
「(この辺りだと思うんだけど……)」
マリアンヌは飲食店のゴミが積まれた袋のまわりをくまなく探すと、血を流していた正体が目に飛び込んできた。
「(……あっ!!)」
そこには片方の翼から血を流している1羽の鳩だった。
「マリアンヌ?いったいどうしたんだい?」
「(あっ!アンダーテイカーさん!!)」
やっと追いついてきたアンダーテイカーの手をひったくる様に捕まえると、マリアンヌは怪我をしている鳩を指さしながら必死に訴えた。