第4章 悪魔と、死神と、切り裂きジャック
アンダーテイカーはシャワーを浴び着替えると、キッチンへ行きいつものぬるい紅茶を淹れた。
ビーカーを人差し指と親指で挟むように持つと、ダイニングテーブルの真ん中に置いてあるバスケットから骨型クッキーを1つつまみ唇で咥える。買い置きのパンもあったが、マリアンヌで十分に満たされていたアンダーテイカーはそこまで空腹ではなかった。
そのまま長い廊下を歩き店に向かう。
「………イッヒッヒッ…」
いつものイスにいつものように腰掛けひと心地つけると、思い出されるのは昨夜の事だ。
切り裂きジャック事件の真相をあらかた掴んでいたアンダーテイカーは、それをマリアンヌに見せれば、再び人間への憎悪を募らせるだろう事は分かっていた。
あそこまでマリアンヌの心が壊れてしまったのはまったくの予想外であったが、アンダーテイカーにとっては都合のいい予想外だった。
マリアンヌの気持ちを疑った事などただの一度もないが、人間の心とは実に移ろいやすいものだ。
そのため、トラウマやフラッシュバックによって、今までよりもより激しく、より深く自分を求めてくれる様になれば、それは愛よりも固い絆となりマリアンヌを縛る事ができるだろうとアンダーテイカーは考えていた。
もう二度と大切なモノを失いたくなかったアンダーテイカーにとって、マリアンヌはもう絶対に手放すことのできぬ存在だ。
マリアンヌが自分の側を離れていかないのであれば、例え過去のトラウマを使ったとしてもためらいはなかった。
あの様子では、しばらくマリアンヌは店に出ることもできないだろう。別にそれでも構わない。
そんな事を考えていたら店の扉が突然あいた。
「いるか?アンダーテイカー!?」
入ってきたのはシエルとセバスチャンだった。
「おや?伯爵かい?」
昨夜の事件は最後まで見届けていなかった。詳細は分からなかったが、アンダーテイカーはすぐにヤードの面々が事後処理に当たるものだと思っていた為、今朝のシエルの来店は予想できていなかった。
「今日は情報ではない。頼みたい仕事があって来た……ん?マリアンヌはいないのか?」
シエルは店の中をグルリと見渡すと、アンダーテイカーに問いかけた。