第1章 甘くて激しいバレンタイン♪
セバスチャンは人差し指を立ててウインクをして見せるが、マリアンヌはガトーショコラを作るなど一度も言ってはいない。
何故わかったのだろうか。
マリアンヌがポカンとセバスチャンを見つめていると
「ファントムハイヴ家の執事たるもの、このくらいの推測ができずにどうします。」
今度は心まで読まれてしまったのかと慌てふためいてしまった。
玄関まで見送られると立派な馬車が用意されていた。
ツヤツヤの毛並みの青毛の馬が2頭も繋がれている、いかにも貴族が乗るような馬車だ。
「(!!!)」
今朝アンダーテイカーが乗っていった馬車とはまったく格が違う。
こんなのに乗って帰れるわけがないと、口をパクパクさせていると、セバスチャンは慣れた手付きで御者に運賃を渡してしまった。
もうマリアンヌは馬車に乗るしかない。
「おい…今度来る時も1人で来いよ。」
玄関からはシエルが馬車に乗り込むマリアンヌを見送りにきていた。若干先程のエリザベスを出した返しを根に持っている様な雰囲気だった。
今度は覚悟しとけよと言いたげな表情で、シエルは気怠そうに屋敷の中に戻って行ってしまった。
「人間とは強欲で醜悪な生き物だと思っておりましたが……」
「(!?)」
「あなたの様に、無垢で無欲な方もこの人間界にいらっしゃったんですね。」
……いきなりなんのとこ?
セバスチャンの言っている事がよく分からない。
「葬儀屋さんもそんなあなたにご執心なんでしょうね。私も少々興味が湧きました。」
するとセバスチャンはマリアンヌの髪を後ろから少し寄せると、うなじあたりに軽く唇をつけた。
「(キャッ!!)」
一瞬ビクリとしたが、セバスチャンは何くわぬ表情でマリアンヌを馬車に乗せると、御者に合図をだし、馬車を発車させてしまった。
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その頃、アンダーテイカーは馬車を降りると、とある建物の扉の前に立ち呼び鈴を鳴らした。雰囲気から察するに何かの店のようだ。
──ガチャ──
「はーい♡マリアンヌ〜!待ってたわよ〜!」
中から店主と思われる女が飛び出してきたが、マリアンヌの姿が確認できないとなると、急に目を釣り上げ青筋を立てた。