第1章 姉妹
「コバト?」
突然、勢いよくかぶりを振った娘を父が怪訝そうに見やる。
顔を手で覆い顔を伏せていたピージオは耐えられないというようにクスクスと笑い声漏らす。
(余計なことまで思い出してしまいました……)
訳知り顔のピージオにコバトは抗議の言葉を発しようとして、少し考えて飲み込んだ。
「いえ、あまりご縁のないおうちだと思いまして」
当たり障りのない表情を作り、当たり障りのない言葉を口に出す。
ふたりの娘の間でわけがわからないという顔をしたクローフだったが、
「……そうだねえ。うちとはあまり付き合いがないからねえ」
娘のどこか無理のある返しにも相槌を打ち、肯定する。
もっとも付き合いがないというより、格差がありすぎて付き合ってもらえないが正しいが。
ちょいちょいと手招きをするクローフ。しかたなくコバトはテーブルに身を乗り出し対面する父に寄る。
「まあそのアトマイス家の次男のダミュロン君がだね。
実はね。実は……なんだと思う?」
(どうして小声?どうしてなぞかけ?)
突然すぎるそれに首をかしげる。
「わからないよねえ!そうだろう!いやあ、私もさっき聞いたんだけどね、驚いたよ!」
娘の行動を問いかけの答えがわからないものと受け取って上機嫌に父はテーブルを叩く。
心なしかそれはドラムロールに聞こえなくもない。
はしたない行為にコバトは眉をひそめるが、そんな娘の様子に気づくわけもなく。
最後にバンっと強く打ち付けると、さらにもったいぶって間を空けて言った。