第2章 姉妹2※
「いやいや、落ち込まないでよ。従者にすごく慕われてるんだなって感心したんだよ、俺は」
励ますようにコバトの肩を軽快にたたく。
「あら、随分仲良くなったみたいね」
声の主が近づくことに気づいたダミュロンがいち早く手を振る。
遅れてその姿を確認したコバトは軽く頭を下げた。男は意外にも夜明け色の彼女に駆け寄ることなく、コバトの横にいた。サッと影が差したかと思えば、馬車がかたりと揺れて自然と男にもたれかかるような体勢になる。
「それはもう」
ダミュロンはキャナリに見せつけるかのようにコバトの肩を抱き寄せる。
「将来はお兄さんのお嫁さんになるんだって言われちゃった」
(なななっ! 何てことを!)
コバトワナワナと震える右手をさらに震える左手で押さえつける。
まだ本人ですら認めきれていない淡い心のうちをその相手から冗談半分に口にされてはたまらない。
「あなたねえ……」
額に手を当て軽く首を振るキャナリ。
「えー、だって俺ってば彼女たちの命を救ったヒーローなわけだから」
「はいはい、あなたって人は本当にデリカシーがないんだから」
少女を気遣うようにキャナリがダミュロンを引きはがす。
最高のタイミングを手に入れたコバトは息を吸った。
「私! 背が高くてカッコいいお兄さんが好みですから!」
今日一番の声を張り上げた少女に大人ふたりは目を丸くしていた。
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「……コバト! コバトったら!」
「姉さま?」
「もう! ぼーっとしちゃってどうしたの!」
どれくらい想い出に没頭していたのだろう。
姉の背後を覗けば、散らかっていた矢はすっかり片付けられていた。
「ぼーっとなんてしてませんよ」
ふふんっと首を傾げ顔にかかった髪を払う姉は得意げに言った。
「じゃあその本はどうして上下逆さなの?」
「えっ?」
慌てて手もとに目を落とすが、文字はそのまますんなりと頭に入ってくる。
「ふふっ。こんなことに騙されるほど何に夢中になってたのかしらね」
ふわりとスカートを翻しターンを決めて、少しかがみピージオは手を差し出す。
「さあ、ハルルを呼んでくれるかしら。家に帰りましょう!」