第2章 姉妹2※
「はぁはぁ……はぁ……」
「ふう」
全力で長距離を走り切った後のように青白い顔で息を吐くコバトと対照にいい仕事をしたとばかりの満足げな表情で息を吐く男。
恨めし気な気持ちも、今日一番かというくらいイイ顔を前にしては霧散せざるを得ない。
「あの……」
それでも意を決してコバトは声を発した。
「もしかして先ほど靴ぶつけたこと怒ってますか?」
魔物のうやむやですっかり過去に追いやっていた出来事を持ち出す。
「心外だな」
むっという効果音が出そうなほど唇を尖らすダミュロン。
「今のはれっきとした治療行為だよ。第一、俺がその程度で怒るような器量の小さな男に見えるかい?」
まあ確かに痛かったけどね。と続けて笑う。
(少しも面白くない)
さきほどから男の一挙一動に振り回されてばかりいるコバトは頬に力をこめる。
これ以上玩具にされるのは面白くないとばかりの小さな抵抗だ。
「しっかし」
視線を下げて少女の全身を見やる。
結い上げた髪はところどころもつれ、涙でにじんだ瞳に赤みを帯びた鼻先とひどい姿であったが、足をしっかりと揃え、片手で汚れたスカートを正すその姿は小さいながらも正真正銘のレディだ。
「あ、あの!」
視線に耐えられなくなったコバトはたまらず声を上げた。
「んっ?」
「手を」
「ああ、まだ痛むかい?」
ダミュロンは囚えたままの少女の片手を恭しく撫でる。
白々しい。男は、コバトの気持ちを知りながらわざと戸惑うようなことをする。
「そうではなく」
「こんなさ……」
絞り出すようにつぶやかれた言葉はコバトの抗議を遮るには小さな音であったが、先ほどまでの雰囲気を一変させるような真面目な響きがある。
一度切れた言葉にコバトは息をのんだ。
「こんな小さな手に守られたんだなって」