第2章 姉妹2※
「サイノッサスもビックリの猪突猛進娘って聞いてたけど」
雰囲気を一変させる台詞と共にケラケラと笑いだした。
楽しそうなのは良いことだが、内容は捨て置けない。
サイノッサスといえば、勢いに任せた突進と突き上げが強力な猪型の魔物だ。ふさふさとしたタテガミは高貴と言えばそう見えなくもないが、間違っても深層の令嬢を形容するものではない。コバトに対してこのような軽口を叩くような相手は。
「俺たちが訓練していたそばでさ、悲鳴が聞こえたんだよ。旅人が魔物に襲われてるんじゃないかって慌てて行ったらさ」
前の話と全くつながらないがとりあえず先をうながす。
「武装した護衛って感じのガタイの良い兄さんたちが助けてくれってすがってきて、相手見たら今にも殴り掛からんってばかりの兄さんと木の棒構えたメイドさんがいたわけよ」
御者台から消えた従者が無事だったことにほっと胸をなでおろしたのも一瞬のこと。
「どういう状況ですか、それは」
「それは俺も思った」
ダミュロンは自身の頬を人差し指でなぞって続けた。
「魔物に襲われて逃げきったものの残してきたお嬢様をどうするかで揉めてたみたいでね。護衛の方は馬車は丈夫だから助けを求めに行こうって言ったみたいだけど。メイドさんたちがお嬢様のひとりは相手が魔物だろうとなんだろうとサイノッサスのごとく突っ込んじゃうからって。それはもうすごい剣幕で」
苦虫をつぶしたかのような渋い表情を前にコバトは言葉を失った。
緊急事態とは言え雇い主の娘に対しなんという暴言だ。しかもここまで差し迫った際に出た言葉、まぎれもない本心だろう。
「のっぴきならない事態だったから、その場を仲間に任せて俺だけ飛び出したってわけ。間に合って良かったよ。いやあ、従者を暴徒に変えるほどのお嬢様ってどんなかと思えば」
返す言葉もなく黙りこくるコバト。
喜びと怒りと恥ずかしさが同居したこの感情を何と呼んだものか。
いっそこの薄暗いに森に溶けてしまいたい。