第2章 姉妹2※
男はそのままぐいとコバト腕をつかむと、どこからか取り出した水筒を傾ける。透きとおる流れが泥に隠れた白い肌をさらしていく。生ぬるいそれに息を吐いたのもつかの間、汚濁した水が指先を伝った瞬間電流が走った。
「いたっ!」
「ちょっと我慢ね」
飛び上がるほどの痛みと同時に引こうとした手を強い力が押し込める。掴まれた腕の力は強いが痛みを感じるほどではないが。
「いたい! いたぃっ!!」
柔らかな水が緩慢な動きでこれでもかってほど傷口を抉る。水筒が角度をつけるとそれに比例して、割れた爪先がジンジンとした痺れが増す。熱を帯びた痛みから逃れようにも動けずコバトは悲鳴を上げることしかできなかった。
穏やかな暴力は指から落ちる雫が透明になるまで続いた。
男は掴んだ小さな手を右から下から覗き込み、頷くとこれまたどこから出したかわからない布を押し当てる。コバトは抵抗する気力もないのか人形のように男のなすがままになる。
「うん、綺麗になったね。帝都に戻ったら治癒術をかけてもらえるけどそれまで傷を汚したままだとよくないからね」
放心するコバトに、男は一仕事終えたといわんばかりの清々しい笑顔を向ける。一時前よりもダミュロン”らしい”顔だったが、コバトはもう何の感情も湧かなかった。
「さてと……」
嫌な予感からコバトの背中を汗が伝う。
本能から後ずさりした体はあっけなく男の元に戻された。
男はコバトの泥にまみれたもう片方の腕をつかむと、口の端をあげてニヤリと笑った。