第2章 姉妹2※
キャナリの手導かれるままにゆっくりと剣を下ろし、その柄を彼女が受ける。
「ありがとう」
剣を返したことに対する礼だろうか。
コバトは何もしていない。礼を言うのは自分の方だと手を振った。
「私の仲間を助けてくれようとしたでしょう」
キャナリが言った意味が分からず、コバトはぽかん彼女の顔を見つめ返した。
ふふっと小さく笑うと立ち上がりキャナリは後ろを振り返る。
「それであなたはいつまでそうしているつもりなの?」
「小隊長殿申し訳ありません!」
間髪入れずに上がった声はピージオの下。
あおむけのまま、ビシッと敬礼する男。まったく決まっていない姿にキャナリが首を振る。
豊かな髪がふわりと広がる。それに隠れるようにコバトは息を吐いた。
(よかった。無事だったのね)
キャナリはもがく男を見やり、やや大げさにため息をつくと、「もう、しかたないわね……」と呆れたように呟き、上にかぶさるピージオを抱き起こしにかかる。それほど体格に差があるようには見えないが、コツがあるのかあっさりとピージオを抱き寄せる。まだ意識が戻らないのかぐったりとした彼女はなすがままにキャナリにもたれかかった。
すると、けたたましい音を立てて馬車が駆けつける。勢いそのままに数人が飛び降りる。みな、男とキャナリと揃いの姿だ。
先頭の背が高い男があたりを見回し、幾人かがその場を離れる。
コバトたちの様子から取り急ぎの危険が去ったことを瞬時に判断し、それでも周りを警戒怠らない。まず、ファリハイドで赤い顔でグラスを煽る騎士たちにはできないだろう。
「~だから!!」
いくらか芝居がかった声の方を見れば、仲間の手を借り立ち上がった男はキャナリを相手に話し込んでいた。
先ほどのやりとりからキャナリのほうが立場は上のようだが、男を見る彼女の表情は柔らかい。
これまでの経緯を説明しているのか、男が大げさなほど大きな身振り手振りを見せる。
ヘラヘラとした男にキャナリは仕方ないわねと言わんばかりにすぐ微笑む。
ふたりの親密さが見えるやりとり。
眠り続けるピージオはこれを知っているのだろうか。