第2章 姉妹2※
「ケガはありませんか?」
夜明けを思わせる色の長い髪が彼女の動きに合わせてふわりと広がる。
その鎧には見覚えがある。姉が下敷きにした男と同じもの。
「は……はい……」
コバトはカラカラとした喉から絞り出すように声を出す。
「よかった」
女は気にしたそぶりもなく、にこりと笑う。
形の良い眉に涼し気な目元がやや下がる。魔物と対峙する姿は歴戦の勇者のように凛々しく勇敢であったが、こうして見ればたおやかな女性だ。身に着けているものは身を守るものとしては申し分ないが、女性としての美しさを引き出すようなものではない。しかし、それすらも彼女の魅力を引き立てているように見えてしまう。
「私はキャナリ。騎士です。すぐそこまで仲間が来ていますのでご安心ください」
キャナリは湿った地面を歩いているとは思えないほど軽やかな足取りをみせる。
「剣、もう大丈夫ですよ?」
その姿に見入っていたコバトは彼女の言葉に武器を構えたままだったことを思い出した。
コバトがしげしげと切っ先を眺めていると、キャナリがくすりと笑う。
「見てて」
自身の持っている弓をあげる。白銀に輝くそれは形こそコバトの手にあるものに似てはいるが、細身で精巧見える。キャナリの手がかかったとほぼ同時に剣の形に変わった。
もう一度キャナリが手をかけると今度は剣が弓に姿を変える。
どこをどのようにしたかはコバトにはわからなかったが、この剣が妙な形だったのは弓としても剣としても使えるこの武器ならではの仕組みと理解できた。
「面白いでしょう」
コバトはこくりとうなずき、腕を下ろそうとして。
(???)
腕が動かない。
(腕ってどう下すのだったかしら)
気持ちは焦るが、びくりとも動かなかった。
こめかみの汗があごを伝う。
握りこんだ指はコバトのものではないかのようだ。
(早くしないとキャナリ様に変に思われてしまうわ)
キャナリは静かにコバトの横にかがむと、手袋を外し彼女の手を自身の手で包む。
「よく頑張ったわね。もう大丈夫。怖いのは終わりよ」
(温かい)
手を通して彼女の優しさが伝わってくるようだった。
大丈夫という言葉はこれほど安心感がある言葉だったのだろうか。
言葉つながりで笑顔の姉が頭をよぎる。
その瞬間ふっと力が抜ける。