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【TOV】水鏡の波紋

第2章 姉妹2※



あんぐりと口を開けたまま二人が消えた空間にうつろな目を向けるコバト。

お嬢様らしからぬ姿だが、ガランとした車内に彼女を責める者はいない。

人形のごとく身動きしない彼女であったが、頭の中は大層忙しかった。

い、今の人あの方よね! あと! 姉さま! 一緒に落ちたけど…。
乗るときに階段上ったわ。たしか、3段だったかしら…大したことない…わよね。
でも背中から落ちて…。いえ、私も疲れているし見間違えよね。それに鎧を着てらしたもの!
姉さまはああ見えてすごくすごく丈夫だと思うわ。

「大丈夫なんて思えるわけないわ!!」

悪い妄想は姉の口癖ではごまかしきれず、這いずって向かう先は外。
先ほどとは異なる理由で青ざめたこめかみを汗が伝う。

「どうか…どうか無事でいてください」

祈るような気持ちで外を覗き込む。

「うえっ」

目下広がる光景に落ちたふたりの心配より、正直な感想が優先された。

姉と姉の下敷きになった男。
そしてその下には黒い毛皮。
それは馬車を襲っていたあの黒い魔物だった。

あまりに短期間に色々と起こりすぎて、すっかり頭から抜けていたが
先刻までこの魔物に命を奪われかれない状況だった。
ところが今は、魔物は上にいるふたりに対しても、見下ろすコバトに対しても、何の反応も示さない。
状況から察するに

(あの方が魔物を?)

男はコバトの心の声に返事をしたかのように低く唸る。

(生きてる!)

なんにせよ最悪の事態が防げたことにコバトは胸をなでおろす。
再び男が唸り声をあげる。
ピージオが重いのか、敷物の寝心地が悪いのか。
身内としては是非とも後者であることを願うばかりだ。

(姉さまを起こさないと、あの方が伸びてしまいます)

「姉さま!!」

完全に気を失っているのか、男の腕の中でピクリともしないピージオ。

コバトは床に座り込んだまま足先を外に出し、少し考えるそぶりを見せてから引っ込める。
留め金を外し、片方だけ履いていた靴を丁寧に床に置いてから、飛び降りる。

森特有のひんやりとした空気がスカートを膨らます。
慌てて手で押さえたところで地面に足が着く。

ぬちゃり

湿った柔らかい地面がコバトの足を包み込むように受け止める。
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