第2章 姉妹2※
あと数分で栗毛たちのようになるとしてもタダで食わせてなるものかとコバトは奮起した。
その間も続く揺れと衝撃。
態勢を崩したピージオを押しのけコバトは、履いていた靴を脱ぎ利き手で握りしめる。
コバトくらいの年齢の少女が履くにはやや高すぎるヒール。
威力はダンスの先生で実証済だ。
ガンガンと何度か乱暴なノックの後、ギシリッと音を立てて扉が開かれる。
完全に扉が開いたのを見図り、今だとばかりに肩を振り切る。
それは空中で回転しながら侵入者に向かって軌跡を描く。
そして、まさかの奇襲に驚いたその顔にメリッとヒットした。
「あつっぅ!」
しかし、大きく体をのけ反らせたものの入り口のふちにかけた手でこらえる。
ならばもう一発ともう片方の靴に手をかけかけて顔を上げる。
(かお、て? ええっ!!)
そう、侵入者は人型だった。
栗毛たちを襲った黒い獣が来るとばかり思っていたコバトはあまりの急展開に頭がついていかず
ぽかんと侵入者をみつめる。
あいたたた~とボヤキながら顔を抑える人型。
否、人間の男性。
商人たちが雇った護衛が戻ってきたのかと思ったが、その鎧と水色服には覚えがなかった。
ダメージから立ち直ったのか顔を抑えていていた手が離れる。
ボサボサの黒い髪、寝ぼけたような翡翠色の瞳……。
コバトが男の姿を記憶のそれとすり合わせする。
そう忘れもしない。彼の名は……
「だ、……」
コバトが彼を呼ぼうとしたところで背後の気配にびくっと体が震える。
すっくと立ち上がったピージオ。
一歩、二歩狭い車内をふらりと歩く。
いつぞや読んだ本に出てきた生きる死体のような動きだ。
少し怖い。
彼の前まで来て、無言。
男の方もこの状況にどう対応してよいのか悩んでいた。
これは引き寄せるのもありか、いや子供の前でどうだとその手はピージオの腰のあたりの中途半端な位置で固まっている。
近い距離でしばし見つめ合うふたり。
突然、ピージオが倒れた。
「うわああああっ!!」
予想もしない攻撃(?)を両手で抱き留めたまではよかったが、
靴よりも大きな力に耐えきれず後ろに倒れる。
そのままピージオもろとも馬車から消えてしまった。