第2章 姉妹2※
「コバト大丈夫。大丈夫だから、落ち着いて、ねっ」
(大丈夫? 何が大丈夫なんですか!)
体こそ落ち着いているかのように動いていないが頭の中は落ち着かない。
後ろから大きな衝撃が加わる。
今ならわかる。
これは魔物の体当たりだ。
つんのめったように前に押され揺れが止まる。
それは馬車がこれ以上走れなくなったことを意味する。
(護衛どころか御者もいなくて、動けなくなったとか)
ガタガタとした音がなくなれば車内は静かだった。
ピージオが小声で呟く。
「この馬車は丈夫だから。このままじっとしてれば、きっと諦めてどこかいってくれるわ」
(丈夫な分重くて遅いから置いて行かれたのよ。扉も歪んでるしいつまでもつかわからないじゃない)
ピージオの腕間から扉の歪みを覗き込む。
さきほどのぎょろりは見えなかったが安心はできない。
「いい子ね。このまま静かにしていましょうね」
静かだ。
何も音がしない。聞こえるのは鼓動だけ。
トクントクンいつもより早いそれは姉のものなのかコバト自身のものなのかわからない。
また扉に体当たりが来るのではないかと構えたが、それもない。
姉の言うとおり、頑丈過ぎる馬車を諦めてどこかにいってしまったのだろうか。
「姉さま、姉さま」
「もう少し。もう少しこうしていましょう」
ピージオに握られた手から伝わってくる温度は低い。
口調こそいつものとおりだが、体から伝わる小さな震えが彼女の怯えを表している。
コバトはゆっくりとピージオの腕を外し、ゆっくりと立ち上がる。
ピージオは不安げにこちらを見上げただけで何も言わない。
彼女とて今の状態を知りたいのだ。
壁に手をつき息を飲み込む。
何があっても声だけは出さない。そう決めて、おそるおそる小窓を覗いた。