第2章 姉妹2※
(もう少し……)
めいっぱい腕を伸ばしているが、あと少しのところで指先が宙をかく。
あの小窓に手がかかれば、体を引き寄せられる。
あとコイン一枚分。
届かない。
ギギギギギギッー!!!
耳をつんざくような不快音にコバトの体が一瞬浮く。
勢いに身を任せれば、揺れ逆らうことをやめた体はそのまま飛び上がる。
伸ばした指先が小窓のふちにかかる。
「つっうぅ」
片手に、第一関節に、体重が一気にかかる。
痛みを我慢し、もう一方の腕も伸ばす。
ふちに爪を食い込ませ、体を壁にしっかりと寄せる。
ガラスの向こうには狂ったように揺れるしっぽ。栗色の尻。
御者台には誰もいない。
握るものがいなくなった手綱が跳ねているだけだった。
馬の前はどうだ。前を走っていたはずのキャラバンの馬車は見えない。
護衛の姿もコバトからは見えなかった。
「嘘でしょう」
突如、地を這うような咆哮とともに馬車がドンッと前に押される。
爪先が窓枠からはずれ、宙に浮いた体は、一気に背後へ。
歯を食いしめ次の瞬間に備えるが、思っていたような痛みはない。
「大丈夫、コバト」
ピージオがコバトを受け止めていた。
むき出しの白い肌に赤い筋が浮き上がる。
「姉さま、いないの! アビがいないの!」
コバトは姉に食いかかるように自分が見た光景を伝える。
御者のいない馬車がどうなるか。今のところは木々を避けて走っているがそれもいつまで続くかわからない。
「落ち着いてコバト!大丈夫だから!」
ドンッと側面から衝撃が走る。
床が衝撃とは逆の方向に傾き、大きな音と振動とともにすぐに水平に戻った。
「今度は何が」
「……大丈夫だから」
青い顔でひきつったような笑みを浮かべるピージオ。
前からの衝撃なら理由もわからなくもないが、横から。
混乱した頭を立て直すより早く衝撃のあった方を見てしまう。
歪んだ扉の隙間から薄い光が差し込んでくる。
見てはいけない。本能が告げるが、そこから目を離せない。
差し込んでいた光が消えた。次の瞬間、鋭い光を放つなにかがぎょろりと動く。
動いたそれはコバトを完全に捉えていた。
口を開けたものの声は出ない。
妹の様子に気づいたピージオが体をよじる。
が、もう遅い。
見てしまった。これは
--魔物だ。