• テキストサイズ

【TOV】水鏡の波紋

第2章 姉妹2※


コバトのおでこに濡れたハンカチをあててため息つくピージオ。

「冷やすものも持ってくればよかったわ」

屋敷を出るときに持ってきた飲み物にひたしたそれは
ピージオの言うとおり、熱をもった額を冷やすにはぬるすぎた。
額の痛みもそれなりにあったが、それよりも背もたれにぶつけた腰も痛い。
座りなおそうとコバトが腰を上げると、

ガタン!ガタガタガタ!!

また馬車が揺れだした。

今度はひじ掛けと座面にかけた腕の力でこらえたコバト。
痛む部位を守ったのは及第点だが、辛いものは辛い。
揺れに耐えるべく座席の端に寄りかかる。

「アビ!!」

腹に力を込めて御者の名前を呼ぶコバト。
今度も彼の独特の謝罪が返ってくることを期待したが、
返事はなしのつぶて。
馬車の揺れはますますひどくなる。

「コバトこっちに」

呼ばれて姉の方を見ると、床に座り込み座席にもたれかかるように体を支えていた。

(なるほど)

コバトも姉に倣い座面を滑り床に座り込む。
体を支える面が多いおかげで体が安定する。

「返事もしないなんて、何かあったのでしょうか」
「アビのことだから答えるのが面倒になっただけじゃないのかしら」

一瞬、それもあるかと納得しかけて首を振る。

「さすがにそれはぁあ!」

重力に逆らうように床が跳ねる。
口を手でふさぎ、これ以上喋ると舌を噛むとピージオが合図する。
黙ってコバトはうなずいた。
こんな無駄話で無駄なケガはしたくない。

ガラスのガタガタと揺れる音が尋常でない様子を車内に伝え続ける。
窓のふちに手をかけ外を覗けば、見える景色が先ほどとは比べものにならない速度で遠ざかっていく。

(また馬車の速度が上がってる)

またガクリと馬車が傾く。
壁に背をぴったりとくっつけてこれをなんとかをやり過ごす。

「アビ!!どうしたのアビ!!!」

ピージオが叫ぶが、アビからの返事はない。

そうこうしているうちにまた揺れが大きくなった。右に左に上に下に。
バラバラになってしまうのではないかというくら弾む床に耐えるべく、肩を隅に押し込む。
とにかくアビの様子が知りたいと、壁伝いに床を這う。

「戻って!」

姉の言葉は無視して、腕を伸ばす。
この揺れさえなければ立って小窓を覗き込むだけですむ話だが。
/ 32ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp