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【TOV】水鏡の波紋

第1章 姉妹


夜もまだ明けきらぬといった中を商人たちがいそいそと荷を運び込む。忙しいさ中でありながら彼らがちらりと横目で見ていることにコバトは気が付かないふりをする。
彼らが気にしているそれを視界に入れないようしていたが、いつまでもそうしているわけにもいかず意を決する。

穢れを知らぬ乙女のごとき純白を飾るのは黄金。
植物を模したそれは乙女を守る籠のように取り囲む。
前後には羽の生えた子供たちが祝福のラッパを吹く。
頂上からは女性が子供たちを見守る。その表情は記憶の中にある母親を思い浮かばせた。
”それ”を導くは2頭の若い葦毛。バケツに鼻先を突っ込んでいつもより早すぎる朝食に夢中な様子。

そう遠くない未来に自分が乗るそれを前に、本人の意思とは無関係に口の端がひきつる。まったく彼女の趣味ではない。だいたい子供のモニュメントはなぜ服を着ていないのだ。おもむろに金の部分に指をすべらせると、ひんやりとした感触からそれらが金属であることがわかった。

後ろにはウキウキと言った様子で、娘たちの反応を心待ちにする父がいた。

帝都行きが決まったのは3日前それから作ったにしてはいい仕事ですね。と、思い着いた中で最上級の誉め言葉を考えてみたが、どうにも可愛げが足りないように感じて口をつぐむ。

「あら、素敵。お姫様にでもなったみたい」
と、後からきた姉が横に並ぶ。その顔に浮かぶのはお花畑を前にしたかのような満面の笑み。
対して父はピージオはいつだってパパのお姫様だよ。と鼻の下を伸ばし娘の手をとる。

なるほど。あれが正解か。と、満点解答を見てもそれをそのとおりに再現することに抵抗を覚えたコバトは「綺麗ですね」と無難な一言を口にした。

「うんうん。綺麗だろう!天使を見守る女神。おまえたちのお母さんをイメージして作らせたんだよ」
もうひとりの娘の心のこもらない言葉を良い方にとりさらに上機嫌になる父。
「まあ!では、私たちは天使ですわね!!」
「そうさ!私の可愛い天使たち!!」
お姫様で天使って忙しいですね。娘を裸で車体に張り付けるってどうでしょうか。天使がラッパを吹くと世界が滅ぶのでは。と至る所に散らばる突っ込みどころを頭によぎらせながら、姉ごと父に抱きしめられる妹。帰ってきたらこれを作った職人を紹介してもらおう。という現状に関係ない思考を追加した。
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