第1章 太宰さんがサボる理由を知った日
結局その日、太宰さんが帰ってきたのは定時になってからだった。
帰るのが遅いと国木田さんから怒られていたが、飄々とそれを躱す太宰さんは流石だと思った。
そんないつもの太宰さんと違う部分を見た翌日、
今日も太宰さんはいつの間にか消えていた。
本当に、気付いたらいなくなっているので止められない。
国木田さんが怒り狂っていたので、何となく昨日の太宰さんの匂いについて話した。
異能力のせいか、鼻のいい僕だけが気付いた匂い。
キツすぎず、薄すぎない、いい匂い。
その匂いは太宰さんの外套からいつも匂うものだった。
きっと、よくあの花屋に行ってるんだろうな、そんな気持ちで零した言葉。
この話に食い付いたのはナオミさんだった。
「ナオミ、その話気になりますわ!」
“太宰さんが悲しそうな顔をしているなんて想像がつきませんもの”
と僕と国木田さんの昨日の話を聞いて興味を持ったのか目がキラキラしているナオミさん。
「追いかけたりしてはダメでしょうか、きっと、敦さんの言っていた昨日の花屋に居ますわ!」
「えぇ、いいのかなぁ…」
戸惑う谷崎さんをよそに、“追いかける、”という言葉に反応したのは国木田さん。
「……確かにいいかもしれんな、今日こそとっ捕まえて、仕事をさせてやる!」
やる気まんまんの国木田さん。
「では、決定ですわね!与謝野さんに乱歩さんはどうします?」
何故か僕は行く事が決定らしく、腕を掴まれていた。
「僕はいいや〜。太宰が何してんのか大体分かってるし。」
「あたしもいい。太宰が何してんのか知ってるしね。」
興味なさげな乱歩さんと少し悲しそうに目を伏せる与謝野さん。
その様子に少し疑問を抱きながらも、
きっと二人の様子から聞いても教えてはくれないだろう。
そう思い、僕達は昨日の花屋に急いだ。