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太宰さんが、サボる理由……

第1章 太宰さんがサボる理由を知った日


太宰さんを追って病院に入る。
どうやら太宰さんはよくここに来ているようで、看護婦さんや患者さんに声をかけられている。


太宰さんが通り過ぎたあとはみんな同じように“一途”だとか“健気だとか、そんな言葉を呟いていた。


けれど、太宰さんが“健気”や“一途”というのは何だか当てはまらないような気がして首を傾げていると、後ろから国木田さんの困惑した声が聞こえた。


「太宰が一途、だと?あの太宰がか、…?あの心中だ何だと言ってナンパしまくり、社の看板を汚しまくっている、太宰が、か…?」


“俺の手帳に、太宰が一途とは書いていない!”と混乱しながら言っている。


まぁ、手帳の事はおいといて、国木田さんの意見に僕達は確かに、と頷いた。

太宰さんが“一途”、というのは少し、いや大分想像しずらかった。


そうして混乱している国木田さんを落ち着け、太宰さんを追い掛ける。

すると、太宰さんは一つの病室の前で足を止め、緊張した面持ちで深呼吸をして「名前、入るよ。」と今まで聞いた事の無いほど優しい声で言い、ドアを開けた。


そんな声に少し驚きつつも太宰さんにバレないよう、病室の前に着くとプレートには萩原名前さん、と書かれていた。


萩原さん?の病室のドアを少しだけ開き、中を覗く。


太宰さんは持っていた花を飾ると、ベッドの横にあった椅子に座り、萩原さん?の手を握ると色々なことを面白可笑しく語り始めた。


と言っても、話す内容は些細なもので、


萩原さん?の好きな小説の新巻が出た、だとか、
もうこんな季節になった、とか、
最近こんな事があった、だとか、


そんな事だった。


けれど、どんなに太宰さんが語りかけても萩原さん?の返事は無かった。


寝ているのか、聞いていないのか、ここからは姿が見えないので分からなかったが、


太宰さんは昨日見た時と同じように、いやそれ以上に悲しそうに見えた。


いつもの飄々とした雰囲気は消え、何となく、萩原さんの手を辛さや悲しさを堪えるように、力強く握っている気がして、


何だか太宰さんの後ろ姿は、これまで見たことないほど、頼りなく見えた。
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