第1章 太宰さんがサボる理由を知った日
国木田さんと駄菓子屋に向かい、乱歩さんが好きなものを買う。
僕の生い立ちもあり、駄菓子屋が珍しく落ち着かない様子を見てか、国木田さんは僕にいくつかの駄菓子を買ってくれた。
少し、お母さんみたいだな、と思ったのは怒られてしまうので内緒だ。
国木田さんが乱歩さんの大量の駄菓子を会計している間、僕はそう言えばここら辺は来た事が無かったな…と思い、辺りを見回してしまう。
何だか見慣れているものまで物珍しく思えてしまって、挙動不審な僕だったが、ある場所を見て、視線がそこに留まる。
あれは、
「おい、小僧。いつまで保おけている。会計が終わったから帰るぞ。」
“また予定がズレてしまう”と少し苛立ちを込めた声。
けれど僕の視線はあの場所から動かない。
「国木田さん、あれって太宰さんじゃないですか…?」
そう、僕の視線は太宰さんに向いていた。
太宰さんがいるのは僕達とは道路を挟んで反対側の道にある花屋にいた。
背を向けているので顔は伺えないが、
砂色の外套にボサボサの蓬髪、背が高くて体の見える所には顔以外全て包帯が巻かれている。
何よりも歩いている人間が太宰さん(?)を二度見しているのが太宰さんだと思った要因だ。
「何ッ!?……確かにあの外套はやつだ。」
最初は声を荒らげた国木田さんだが、次第に声を落ち着かせる。
「なにか、妙じゃありません…?」
「あぁ、」
太宰さんの普段からの印象といえば、
明るくて飄々としていて、でも凄く頭が良い掴み所のない頼れる先輩。
そんな印象だった。
けど、今の太宰さんは、
今まで見たことの無いほど悲しそうな顔をしていて、
けれど、手に持っている花を愛おしそうに眺めている。
そんな、印象だった。
「ど、どうしましょう……声かけた方がいいんでしょうか?」
国木田さんにどうするか訊くため顔を逸らし、もう一度太宰さんの方を見る。
しかし、もう一度見た時に太宰さんは居なくなっていた。
それは国木田さんも同じだったようで、驚いたように顔をキョロキョロさせる
「あいつ、どこに消えッ」
「ばぁ!!」
いきなり増えた新たな声は後ろから聞こえた。
驚いて飛び跳ねながらも後ろを見る。
……そこには、先程まで向かいの道にいたはずの太宰さんがいつもの心が読めない笑みで立っていた。