第2章 土曜日
海辺に車を停める。浜辺には何人か季節外れの花火を楽しんでいる中学生がいて、テトラポットには釣り人の姿も見えた。
もう当たり前の事のように、俺達は手をつないで浜辺に降り立った。
砂浜に足をとられながら波打ち際まで歩を進める。海と月、ほんのり赤い空のコラボレーションにしばらく見とれた。
「ここ何年かで、急に海が好きになったんだよね。」
「へぇー?」
「なんか、帰って来た気分になる。」
俺の言葉に、美咲はきょとんと目を見開いて俺を見た。
凪いだ海、潮の香り、一定のリズムで聞こえて来る波音。
日頃の疲れや悩みが浄化されるような、肩の荷が下りるような、柔らかい真綿で包まれるような感覚。
あぁ、母親の子宮にいる胎児ってこんな気分なのかな。
もう全てを忘れて、この手を離してこのまま波に飲まれてしまいたい。
泡となって消えたなら、つまらない事で悩んだりしなくていいのかな。
美咲は、そんな俺をどんな顔して見送るんだろうか。
泣いてくれたら、後を追ってくれたらちょっぴり嬉しいような気がする、なんて考えてしまうのは、らしくないのかな。